用語解説

 PEEK(ポリエーテルエーテルケトン,polyetheretherketone)樹脂は,射出成形可能な熱可塑性樹脂としては最高の耐熱性を持つ芳香族系のプラスチックである。融点が334℃で,250℃で連続使用できるという超耐熱性を持つことから,「スーパーエンプラ」とも呼ばれる。

 分子構造としては,ベンゼン環がパラの位置につき,剛直なカルボニル基(-C=O)とフレキシブルなエーテル結合(-O-)によって連結される構造をとっている。非強化では荷重たわみ温度が140℃とさほど高くないが,ガラス繊維などで強化することにより高めることが可能で,ガラス繊維30%強化品で315℃に達する。耐薬品性も優れており,濃硫酸や濃硝酸,飽和塩素水以外の無機・有機薬品に侵されない。

 PEEK樹脂を発見したのは英ICI社であり,1978年に発表され,1981年に発売された。現在は英Victrex社が製造・販売しており,生産能力は2800t/年である。日本ではビクトレックス・エムシーが,Victrex社から標準グレードの供給を受け,日本市場向けのグレードを開発し,供給している。

エンジン周りの自動車部品や
高温ハンダ対応の電子部品に普及

 優れた耐熱性を活かして,PEEK樹脂は自動車部品向けに普及してきた。特に,エンジン部品の性能向上と軽量化を図るために金属製のエンジン部品を代替する材料として使われている。例えば,オートマチック車のトランスミッション用オイルシールリングやABSブレーキシステム向け部品などである。欧州の自動車メーカーが先行したが,日本の自動車メーカーでも採用する機運が高まってきている。

 自動車に続いて,電気・電子分野でも用途を広げてきている。PEEK樹脂の持つ機械的強度,強靭性,成形性を活かして,例えば,英ダイソン社のサイクロン型掃除機のインペラーに採用された。また,耐クリープ性,耐磨耗性,高い機械強度を持つことから携帯電話のヒンジとスライドガイドレールに使われている。さらに,高い耐熱性が評価されてリフロー時の温度が高いPbフリーのハンダ付けを行う電子部品用途にも採用され始めている。

供給・開発状況

2006/07/21

Pbフリー・ハロゲンフリー化
対応コネクタに採用へ


【図】PEEK樹脂を採用したフランスVP Plast社のコネクタ(クリックで拡大表示)

 PEEK樹脂は,自動車部品に続いて電子部品にも普及しているが,これまで実績がなかったコネクタ分野への用途開発が始まった。耐熱性が高いことからリフロー温度が高いPbフリーはんだに対応可能であり,さらに難燃性にも優れることから電子部品のハロゲン・フリー化も達成できることが注目されている。例えば,フランスVP Plast社は,携帯電話機やPDAに実装する高さ約2mmの低背型コネクタに,PEEK樹脂を採用した(図1)。

 高い耐熱性と難燃性を持つ樹脂材料としては液晶ポリマー(LCP)もあるが,それに比べてウエルド強度が高いことが利点だと,供給メーカーであるビクトレックス・エムシーは見ている。また,コネクタへの応用がこれまでほとんどなかったのは,価格は1kg当たり1万円強と高いことも影響していたが,小型・薄型のコネクタになれば用いる樹脂材料の量は少なくなるので,樹脂材料の特徴を考えるとコストパフォーマンスは高いと同社は主張している。

他材料との複合化で高性能化

 PEEK樹脂の可能性を広げるために他の材料と複合化しようという試みも出てきている。例えば,三菱樹脂は,PEEKフィルムをステンレス鋼板に張り合わせる技術を開発した。これまでナイロンやPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのラミネート鋼板はあったが,PEEKは初めてである。PEEKは耐熱性に加えて,耐薬品性、摺動性にも優れることから,自動車や家電部品など過酷な特性が要求されるエンジニアリング分野を狙う考え。

 また東洋プラスチック精工は,押し出し成形用のPBI(ポリベンゾイミダゾール)とPEEKのポリマーアロイ「TPS-PBIアロイ」を開発した。PBIは,熱分解温度629℃,荷重たわみ温度435℃と樹脂としては最高レベルの耐熱性を持つほか,優れた力学的性質や電気的性質を発揮する。ただ,これまでは圧縮成形にしか利用できず形状やサイズに制約があったが,同社ではPEEKとアロイ化することにより押し出し成形を可能とした。

ニュース・関連リンク

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