通信機器メーカーが開発した専用装置が長年担ってきた通信事業者のインフラを、汎用のx86サーバーとその上で動くソフトで置き換えるという概念やその実装技術のこと。通信機器専用に製造されたICや動的に回路が構成可能なFPGAなどのハードウエアが中心的な役割を果たしてきた通信機器を、汎用サーバーとその上で動作するソフトウエアで再構築することで、システム変更の柔軟性や耐障害性を高めることを狙っている。

 NFVは、ソフトウエア的に見ると主に3つの層から成る。第1の層が、「ハイパーバイザー」層。大量のx86サーバー上で、ハードの細かな違いを吸収する層である。第2の層が「仮想マシン(VM)」層。このハイパーバイザーが作り出す仮想のサーバー環境の上で、LinuxなどのOSを「ゲストOS」として動作させる。VMは、1つのサーバー上で複数動作させることができる。そして第3の層が、アプリケーション層である。各ゲストOSの上で動作するもので、ルーターやファイアウオールといった機能を実現する。

 NFVのメリットは、大きく分けて2つある。従来の専用通信機器と比べて低コストであること、および柔軟性が高いこと、である。コストが低く済むのは、(1)数千万円もするような専用機ではなく、汎用のx86サーバーを使える、(2)ルーターやファイアウオールなど通信機能は異なっていても、故障時や処理の負荷増大に備えた予備のハードウエアは、全て同じx86サーバーで共通化できる、という特徴による。従来のように、通信機器の種類やメーカーごとにバックアップ用の予備機を用意しておく必要がない。

 (2)の特徴は、通信インフラの柔軟性を高める効果もある。例えば、当初想定した以上の処理能力が必要になった場合でも、事前に用意した大量の予備機群「リソースプール」の範囲内であれば、ハイパーバイザー上で所望の通信機能を持ったVMを追加することで、処理性能を迅速に増大できる。高価な専用ハードの場合、事前に大量のリソースプールを用意しておくのはコストの観点から現実的ではない。いざ必要に迫られて調達しようとしても、注文してから納入され、工事を経て実際に利用可能になるまでに数カ月単位の時間が掛かってしまう。

 NFVを実現する動きは、大手通信事業者からのニーズから始まった。2012年4月、英BT Group社などが世界の大手通信事業者に声を掛け、欧州の通信関連の標準化団体ETSI(European Telecommunications Standards Institute)の中でNFVの検討を開始。2012年10月にはETSI内のNFVの勉強会「ISG(industry specification group) NFV」がNFVについてのホワイトペーパーを公表したことで、大きな注目を集めた。以来、業界内でNFVについての技術検討が一気に進んだ。

 ETSIのISG NFVには世界の30社以上の通信事業者が参画しており、そこでNFVの参照アーキテクチャーや利用シーンなどが整理されてきた。加えて、通信機器メーカーの側でもNFV対応製品の整備が進んだことで、商用化に踏み切る通信事業者が出てきた。既に、ミャンマーの事業者が既にNFVを商用利用している他、国内でもNTTドコモが2015年度中にNFVを商用化する計画である。