移動通信網のエッジである基地局などに、コンピューティングリソースやストレージを配備し、新たなアプリケーションやサービスの提供を可能にする仕組み。ヨーロッパの標準化団体であるETSI(European Telecommunications Standards Institute)において、2014年12月から標準化が進められている。

 ITサービスあるいはインターネットをベースとしたサービスから見た場合、移動通信網はアクセス手段の1つでしかない。つまり、基地局を含むRAN(Radio Access Network)とコアネットワークは、ITサービスに繋がる「パイプ」となる。このパイプの出口となる移動通信業者のセンター設備は、通常は国内の数カ所に集約されるため、場合によっては基地局の位置から遙かに離れたパイプの口を通してITサービスにつながることとなる。

 MECにおいては、このパイプの入口である基地局内にITサービスのアプリケーションやデータ、もしくはそれら一部を設置することを狙っている。これにより、これまでは実現できなかった超低遅延のITサービスや特定エリアにおける大容量の動画配信サービス、パイプの出口では活用できなかった電波状況を把握したサービスの提供など、新たなサービスの提供が可能となる。

図1 Mobile Edge Computingの概念図
(出典:「Mobile-Edge Computing - Introductory Technical White Paper」(ETSI)より抜粋)
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 MECに相当するソリューションとしては、既に一部ベンダーによる実現例が公表されている。例えばフィンランドのNokia社では、シンガポールの通信事業者StarHub社と提携し、2014年秋のテニスの国際大会においてMECを活用。同大会会場周辺の基地局内にサーバーを設置し、4台のカメラの会場内の映像をモバイル端末にリアルタイムに配信する新たなユーザ体験の提供に成功している。しかしながら、このシステムは独自仕組みに基づく。上記のETSIにおける標準化活動は、マルチベンダーの装置がつながるオープンな仕様を作りを目指したものである。

図2 2014年秋のテニス大会の様子
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赤田 正雄(あかた まさお)
ノキアソリューションズ&ネットワークス
テクノロジー・ディレクター
電気通信業界において30年を超える経験を有し、2014年10月より本職に就任。同社の最新技術やソリューションの紹介、次世代(5G)モバイルシステムの日本法人における検討・推進体制を統括する。