従来の電力供給システムでは、需要に合わせて供給側を変動させることで電力の需給バランスを一致させていた。これに対し、需要家が需要量を変動させて電力の需給バランスを一致させることをデマンドレスポンスという。

 一般に電力需要は昼間に多く、夜間に少ない。通常は昼間の需要ピーク時に供給不足にならないように発電所を確保しておき、需要カーブに合わせて発電している。デマンドレスポンスが導入されると、市場メカニズムを通して需要カーブが調整される。時間帯別料金やピーク価格といった形で需要ピーク時に電力料金を高くし、需要家が電気料金の安い時間帯に電気を使うように促す方法や、負荷制御の受け入れやネガワット取引注)のように需要家が電力会社やアグリゲーターと取引して金銭を得る方法がある。

注)デマンドレスポンスにおけるネガワットは、デマンドレスポンスによって生まれるコントロール可能な負荷削減能力を指しており、削減した「量」に対する金銭価値だけでなく、要請に応じて削減をコントロールできる「能力」に対しても金銭価値が生まれる。

 市場メカニズムによるデマンドレスポンスは、既に電力以外の身近な分野にも導入されている。新幹線や航空機、観光地のホテルなどでは、大型連休やお盆休み、年末年始の繁忙期に料金を高くすることで閑散期の利用を促しており、これは価格調整によるデマンドレスポンスと同じような仕組みである。

 ネガワット取引は、航空機のオーバーブッキング協力金に例えることができる。航空機の搭乗予約は、キャンセル分を見込んで多めに受け付けている。ところが当日になってもキャンセルがなく、オーバーブッキング状態になった場合には、航空会社は協力謝礼金を支払い、別の便に振り替えてくれる搭乗客を募集する。その便に乗らなくても良い客は、協力謝礼金を受け取り、別の便に振り替える。航空会社にとっても、オーバーブッキング分の人を乗せるために新たに航空機を1機用意するよりも安く対応できるため、取引のメリットが生じる。お客は、その時間に飛行機に乗らないことで金銭を受け取ることになり、供給力不足時に電気を使わないことで金銭を得るネガワット取引と同じような仕組みと言える。ネガワット取引では、ベースラインに対する削減量に対して、電力会社が同じ量を発電する場合のコストと比較して金銭価値を与えている。