政府の電力システム改革専門委員会は、2013年2月に公開した最終報告書の中で、「強い情報収集権限・調整権限に基づいて、広域的な系統計画の策定や需給調整を行う、広域系統運用機関(仮称)を設立する」と提言した。この広域系統運用機関の設立によって、これまでの「地域の需要に応じた供給力を確保する」仕組みから、「より広域的に供給力を有効活用する」仕組みに変えようとしている。そして、政府は、2013年中に電気事業法を改正し、2015年の運用開始を目指して設立準備組織を作る予定である。

 東日本大震災から間もなく、発電所の被災により計画停電となったとき、なぜ西の電力会社からもっと電気を融通できないのだろうかと思った人は多いだろう。2012年になると、日本中の原子力発電所が停止し、今度は西日本の電気が足りなくなった。政府は“需給検証委員会”を作り、埋蔵電力がないかとか、もっと電力会社間で融通できないかとか、ネガワットは使えないのか、などを大急ぎで検証した。

 再生可能エネルギーに関しては、北日本や西日本には風力発電に適した地域が多くあるのに、系統容量が小さいため、風力発電の導入量に限りがある。最近クローズアップされたこれらの問題は、すべて電力系統の地域限定性に起因するものだ。日本の電力系統は、その運用にしても、設備形成にしても、日本全国の全体最適化よりも地域の部分最適化を優先する傾向が強かった。このため、強い権限とリーダーシップを持つような、広域系統運用組織の必要性が強く叫ばれるようになったのである。

 電力系統の広域運用に関する組織としては、すでに電力系統利用協議会(ESCJ)がある。しかしESCJは、あくまで地域同士の融通などを支援する機関に過ぎず、震災直後の電力不足に対して、広域的な需給調整を果たすだけの十分な権限がなかったと言われている。広域系統運用機関の設立に伴い、ESCJは解散する見通してある。

 この広域系統運用機関は、日本独自の仕組みであり、海外に同じものは見当たらない。米国のRTO(Regional Transmission Operator、電力キーワード「ISO/ITO」参照)に少し似ているが、RTOが実際にエリア内の需給マッチングを行うのに対し、広域系統運用機関はそこまではやらないなど、違いもある。

 電力システム改革専門委員会は、送配電の「広域化」と「中立化」を大きな改革テーマと位置づけてきたが、完全な中立化(=発送電分離)の実現には相当の時間がかかる。このため、まずは「広域化」だけでも先行したいという考えがあったものと思われる。一方で、発送電分離に慎重な電力業界は、広域系統運用機関さえ機能すれば、発送電分離まで至る必要はないという考えがあったと推測できる。結局、同委員会は、広域系統運用機関の設立と発送電分離の両方とも実行すると決めた。