英語でアンシラリー(Ancillary)とは、「補助的な」「付属の」という意味である。電力用語のアンシラリーサービスは、電力品質(周波数や電圧)を維持するために電力系統運用者が日々行っている、周波数制御などの系統運用サービスのことであり、電力ビジネスにとって非常に重要なサービスのことである。

 アンシラリーサービスをおろそかにすると、周波数や電圧が変動し、家庭の照明が明滅したり、モーターを使う工場では製品の品質にムラが発生するなど、様々な悪影響が発生する。極端なケースでは大停電になることすらある。

 かつては、電気エネルギーの供給機能とアンシラリーサービス機能は一体不可分のものとされ、垂直統合型の電力会社がアンシラリーサービスを独占的に担うのが一般的だった。その後、発送電分離を進めてきた海外では、アンシラリーサービス機能を細かく分類し、取引市場を通じて売買する仕組みが発達した。これがアンシラリーサービス市場である。アンシラリーサービス市場の運営は、卸電力取引所ではなく、通常はISOやITOが行う。

 米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)によると、アンシラリーサービスは以下のように細かく分類されている。

米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)による、アンシラリーサービスの分類
項目定義提供方法
周波数制御系統周波数を一定範囲内に維持するために需要と供給を一致させるサービス。市場取引可能
電力インバランスある一定期間に発生する送電量の計画値と実績値の差を補償するサービス
瞬動予備力発電トラブルなどの事故が起きたら即時に電力を補給するサービス。
運転予備力発電トラブルなどの事故に対し、短期間のうちに電力を補給するサービス。
スケジューリング、系統制御、給電指令供給エリア内の発電計画を立て、そのとおりに給電指令をするもの電力系統運用者が提供し、託送量などで費用回収する
発電設備からの無効電力供給、電圧制御電圧を一定範囲内にするために、必要な量の無効電力を発電設備等から提供するサービス

 この表を見ると分かるように、すべてのアンシラリーサービスが市場取引に適している訳ではないし、すべての発電所がアンシラリーサービス市場に参加できる訳でもない。例えば、周波数制御市場に参加できるのは、系統運用者からの制御信号に応じて自動的に出力増減できる機能(AFC:Auto Frequency Control)などの特別な能力を持つ発電所だけである。瞬動予備力市場に参加できるのは、短時間で出力を増減できる発電所だけである。加えて、米国では最近、デマンドレスポンス(ネガワット)のアグリゲーターが、負荷削減の応答性が良い需要家を集めてアンシラリーサービス市場に参入するようになっている。ほかに、バッテリーをアンシラリー市場に参加させる動きもあるようだ。