2012年9月、電力の安定供給と電気料金の引き下げ(適正な原価の形成)を目的として、経済産業省から「新しい火力電源入札の運用に係る指針」が示された。これにより、一般電気事業者は、新規に火力電源を調達(火力発電所を新設・増設・リプレース)する際には、原則として入札にかけなければならないことになった。

 同指針のタイトルに「新しい」という文字が付いているとおり、火力入札制度は過去の一時期(1995~2003年)に実施されていたことがある。これらは1995年の電力制度改革により、発電市場への参入自由化が実施されたことがきっかけで導入された。当初は開発期間が比較的短い火力発電(7年以内)に限定されていたが、一般電気事業者の募集に対して4~5倍の応札があり、活発な入札が行われた。例えば1996年度には265万kW分の募集に対して、1081万kWもの応札があり、結果して304万kW分の落札となったほか、入札の上限価格(想定されていた適正価格)より1~3割程度低い価格で落札された。

 このように導入された火力入札制度が一定の効果を上げたことから、2000年には対象範囲が見直され、開発期間が長期の電源についても入札を実施することになり、火力全面入札制度へと移行した。しかし、2003年に行われた電力制度改革によって、2005年から卸電力取引市場が整備されることが決定し、「価格競争力のある電源であれば卸電力取引市場を通じて電気の販売が可能となる」ことを理由に、火力全面入札制度は廃止された。

 このような中で、東日本大震災に端を発して原子力発電所の停止が相次ぎ、火力発電のニーズが高まったことや、現時点において卸電力取引市場が活性化していないことを理由に、2012年3月に経済産業省より、一般電気事業者が火力電源を自社で新設・増設・リプレースする場合は、「原則全ての火力電源について入札を実施することが適当である」との基本方針が示された。この基本方針を踏まえ、2012年9月には「新しい火力電源入札の運用に係る指針」が策定され、同年11月には入札を実施する際の透明性・公平性を確保することを目的に「火力入札ワーキンググループ」が設置された。

 経済産業省は、入札対象となり得る一般電気事業者の火力発電所の建設計画(供給計画として既に明らかにされているもの)は15カ所、合計で約1450万kW程度あるとしている。また、一般電気事業者の敷地以外の適地(発電所建設に十分なスペースがあり、パイプラインが近傍にある遊休地など)としては、25カ所、合計で約2000万kW程度あるとの見通しを示しており、「新しい火力電源入札」が活用されるポテンシャルは十分にあると見込んでいる。

 東京電力は2012年5月の「総合特別事業計画」や、同年10月の「ビジネス・アライアンス提案」募集を踏まえ、同年11月時点には、合計260万kW分の新規火力電源を調達すると表明している。入札条件は、2019~2021年にかけて運転を開始する利用率70~80%のベース型火力電源で、売電価格の上限は9.53円/kWhとされている。12月時点で入札募集要綱は確定済みで、2013年2~5月にかけて応札を受け付け、7月には落札者が決定される予定である。この東京電力による募集が「新しい火力電源入札」制度の先駆けとなる。

 なお、「新しい火力電源入札の運用に係る指針」のポイントを挙げておくと、以下のとおりである。

「新しい火力電源入札の運用に係る指針」のポイント
入札実施主体/応札希望者入札の実施主体は一般電気事業者
ほかの一般電気事業者、卸電気事業者、新電力、その他すべての発電事業者が応札可能
自社(入札実施主体)も応札可能
対象種別火力発電であれば、LNG、石油、石炭などの種別は問わない(1000KW以上)
ただし、運転条件(ベース型、ピーク型)は指定可能
対象時期一般電気事業者の供給計画で2018年までに運転開始するものとされている電源(既決定電源)は、既に建設が進んでいるために、入札の対象外とする
2019年以降に運転を開始する新増設の発電所は、対象とする
将来の電源開発計画については、引き続き供給計画等で明示(広く一般に公表)
供給期間原則として15年間
ただし、応札者の希望があれば、15年未満もしくは15年超の期間での応札も可能
入札要綱一般電気事業者が入札要綱を策定し、これをベースとした提案募集を受け付ける
一般電気事業者は、発電事業者(応札予定者)に系統情報など必要な情報を可能な限り公開
入札要綱は中立的機関(火力入札ワーキンググループ)の審査を受けることで、中立性・公平性を高める
その他条件発電事業者が、発電した電気の一部(余剰電力)を切り出して、入札を実施する一般事業者以外に売電することも可能
契約期間終了後に、一般電気事業者との優先交渉権などを設定するなどの条件をつけてはならない
離島電源についても原則として対象とする