政府の革新的エネルギー・環境戦略(2012年9月14日,エネルギー・環境会議決定)の中で、再生可能エネルギーの大量導入に向けて『研究開発・実証』すべきものの中に“高密度蓄電池”という用語が出てくる。ここでは、蓄電池のエネルギーの高密度化に向けた動きを紹介しよう。

 蓄電池は、その名の通り電気を蓄え、好きな時に取り出せる装置である。電気を取り出した後に再充電ができないものを1次電池、充電して再び電気を蓄えることができるものを2次電池という。1次電池にはマンガン電池やアルカリ電池といった乾電池などがある。2次電池は携帯電話機やデジカメの電源、あるいは自動車のバッテリーとして活用されている。最近では電力分野においても、以下に挙げるような蓄電池の利用が注目を集めている。

(1)系統安定化対策
再生可能エネルギー普及時の調整機能」でも触れたが、太陽光発電や風力発電のような出力が安定しない発電機を送電線に直接つなぐと、その出力変動により送電網全体の周波数や電圧の維持が難しくなる。そこで、太陽光発電や風力発電の出力変動を蓄電池で一旦吸収し、送電線へ流す電力の変動を調整することで、送電網への接続を容易にする。

(2)ピークシフト
 需要家に蓄電池を設置し、需要の少ない夜間を利用して予め充電しておく。そして昼間の需給逼迫時には商用受電からの電力ではなく、蓄電池から放電した電力で機器を動かす。これにより、商用電力の利用ピークをシフトさせることができる。家庭用にも設置可能な定置型蓄電池の開発や、電気自動車のバッテリーの利用などが進められている。

 このように電力分野における蓄電池利用の期待が高まっており、製造コストや設置コストの低減に向けた技術が開発されている。設置コストの低減にはエネルギーの高密度化が有効であり、研究開発が進められている。

 蓄電池のエネルギー密度は、重量エネルギー密度(1kgあたりに蓄電可能な電力量:Wh/kg)や体積エネルギー密度(1リットルあたりに蓄電可能な電力量:Wh/dm3,Wh/L)で表される。これらの値が大きいと、小型の蓄電池に大きな電力を貯めることができる。特に自動車や航空機に搭載する蓄電池、あるいは家庭用の定置型蓄電池では重要な性能である。

 代表的な2次電池である鉛蓄電池に比べて、1990年ごろから実用化されたリチウムイオン電池はエネルギー密度が数倍、製品によっては5倍以上という報告もある。リチウムイオン電池は、正極にリチウム金属酸化物、負極にグラファイトなどの炭素系材料を用い、充電時には正極から負極へ、放電時には負極から正極へ、リチウムイオンが移動する。リチウムイオンにおけるエネルギー密度向上策は、正極・負極の材料や構造の工夫である。負極材料として炭素ではなく、ケイ素を用いると約10倍のリチウムを蓄積できるが、充放電時のリチウムイオンの出入りによりケイ素材料の膨張・縮小が起こり、構造が安定しないという欠点があった。これを克服するためのナノワイヤー構造などが研究されている。なお、現在2次電池の主流となっているリチウムイオン電池は、充電時の電圧上昇時の化学反応が強く、過度に充電すると発熱や発火などの危険があるため、充電電圧を高い精度で制御する技術が必要である。

 蓄電池の開発については、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が「二次電池技術開発ロードマップ」を策定しており、2030年以降にはリチウムイオン電池の性能を大きく上回る「金属-空気電池」などの『革新的二次電池』が実用化されると言われている。

蓄電池の種類とエネルギー密度
蓄電池の種類とエネルギー密度
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