電力先渡市場(electricity forward market)とは、日本卸電力取引所(JEPX)が開催する、将来の一定期間に受け渡す電気を取引する市場である。現在、月間の昼間型と24時間型、週間の昼間型と24時間型の商品が用意されている。

 よく似た用語に「電力先物市場」がある。先物取引は必ずしも現物を受け渡す必要がなく、売りと買いの反対売買で差金決済ができる。これに対して、電力先渡市場は現物取引であり、差金決済はできない。例えば10万kWhの電気を売った場合は、受け渡し期間中に10万kWhの電気を供給しなければならず、買い手は10万kWh分の代金を用意しなければならない。なお、日本に電力の先物市場は存在しない。

 日本卸電力取引所が提供する先渡市場には、大きく分けると「先渡定型取引」と「先渡市場取引」があり、それぞれ特性が異なる。下表はそれらを比較したものである。

 先渡定型取引(旧先渡取引)先渡市場取引(新先渡取引)
特徴売り手と買い手が顕名で契約を結ぶスタイルであり、当事者間でのカスタマイズが可能。与信リスクがある電気の受け渡しは電力スポット市場を通じて行うスタイルであり、当事者間の契約が不要で完全匿名での売買が可能。スポット市場と同様、与信リスクを気にする必要がない
取引商品(1)月間型(1カ月単位)の24時間型または昼間型(平日の8:00~22:00)
(2)週間型(1週間単位)の24時間型または昼間型(平日の8:00~22:00)
 いずれも、1年先までの取引が可能
受け渡し方法相対契約と同様、買い手が託送契約に申し込む自動的に電力スポット市場に入札され、スポット市場を通じて受渡しする
売買当事者による契約売り手と買い手同士で契約を結ぶ必要がある匿名取引であり、当事者間の契約は不要である
入札方法ザラバ方式(入札者はいつでも入札でき、価格と量が折り合ったものから逐次約定する方式)。入札者は、ほかの入札者の価格や量を確認しながら入札できる

 先渡市場には、(1)取引価格を将来にわたって固定できる、(2)将来の価格指標が形成される、などの大切な機能がある。日本では長期の電力取引の多くが二者間の相対契約で行われていて、先渡市場の取引量は1.8億kWhであり、日本の総電力需要量のわずか0.02%を占めるにすぎない(出典:電力システム改革専門委員会資料、平成22年度の数値)。このため、政府の電力システム専門委員会は、一般電気事業者による自主的な玉出し、卸電気事業者からの電力供出、日本卸電力取引所による新商品の開発などの卸電力市場活性化策を要請しており、今後の議論の行方が注目されている。