原子力発電を行う際の「核燃料サイクル」のうち、原子燃料製造や発電所運転は一般に「フロントエンド事業」と呼ばれる。一方、放射性廃棄物の処理や使用済み燃料の再処理、原子炉の廃炉事業に関しては「バックエンド事業」と呼ばれる。ここでは、原子炉の廃炉事業を除くバックエンド事業のコストについて、世の中に様々な数字(11兆円、19兆円、42兆円)が飛び交っているため、簡単に解説することにしたい。

 まず、11兆円や19兆円という数字の出典を明らかにしよう。電気事業連合会が2003年11月に、経済産業省(電気事業分科会 第4回コスト等検討小委員会)に提出したものである。そこでは、青森県の六ヶ所村に建設している再処理工場(2015年10月に竣工予定)を40年間にわたって稼働させるための建設費と操業費、同工場の廃止に必要な費用が、合計11兆円と見積もられている。

 ただし、この数字には前提条件があり、六ヶ所村の再処理工場で再処理される予定の使用済み核燃料は、2004年度までに生じている1.4万トンと、2005年度~2036年度までの30年間に生じる分の「一部」である1.8万トンの合計3.2万トンとされている。この3.2万トンの使用済み核燃料を40年間かけて再処理しようという計画がベースとなっているのである(年間800トンの再処理能力)。

 ここで「一部」と書いたが、原子力発電所が当初の計画通りフル稼働した場合、上記の再処理能力では不足してしまい、「中間貯蔵」という形で一時保管しておく使用済み核燃料が、2046年度時点で3.4万トン発生してしまう計算となる。つまり、使用済み核燃料の約半分は再処理するが、残りの半分は中間貯蔵に回すという想定での費用なのである。したがって、全量を再処理すると仮定(いわゆる第二再処理工場の構想が実現)すれば、再処理コスト11兆円は、計算上では2倍に膨らむことになる。

 ちなみに、使用済み核燃料の再処理費用は、当初どのくらいと考えられていたかというと、「考える必要なし」と判断されていたのである。使用済み核燃料から回収されたウランとプルトニウムの価値が大きいので、再処理費用を十分に賄えると考えられていたのである。このため、再処理費用は、当初、電気料金の原価に含まれていなかった。しかし、再処理費用が膨大になることが判明した1980年代前半に、総括原価方式の料金原価に含めるように見直され、電気料金の中で需要家から薄く広く徴収する現在の形がスタートした。

 バックエンド事業のコストが再びクローズアップされるようになったのは、電力自由化がきっかけである。電気事業連合会が試算した18.8兆円のバックエンド事業のコストのうち、六ヶ所村の再処理工場の建設費と操業費や、高レベル廃棄物処理費用などの10.1兆円分については、前述の通り、電気料金で回収する仕組みができていたが、再処理工場の廃止措置費用などの残りの8.7兆円は、電気料金で回収する仕組みにはなっておらず、誰がどのように負担するかが問題となった。

 結論から言えば、2005年10月に「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」が施行され、以下のことが決まった。

●再処理工場の廃止措置費用などの残りの8.7兆円も、電気料金として需要家から回収する(正確には8.7兆円のうち約5兆円分が料金回収)。
●電力自由化に伴い、新規に電力小売市場に参入した新電力(PPS)の需要家からは、「託送制度」を利用して送電線使用料金に上乗せして回収する。

 後者の新電力からの料金回収に関しては、現在でも電力自由化における議論の一つとなっており、「新電力は原子力発電所を持っていないにも関わらず、なぜバックエンド事業のコストを新電力の顧客に負担させるのか」と問題提起されている。

 最後に42兆円(正確には42.9兆円)という数字についても説明しよう。これは、2005年10月に閣議決定された「原子力政策大綱」の作成過程で、内閣府の原子力委員会が明らかにした数字である。経済産業省(電気事業連合会)が示した約19兆円という数字との違いを簡単に言えば、対象期間が2002年から2060年までの約60年間分のコストという点である。ちなみに、2005年当時、内閣府(原子力委員会)が明らかにした数字は、次の4つのシナリオである。

 方式総費用発電コストへの増分
シナリオ1全量再処理42.9兆円1.6円/kWh
シナリオ2部分再処理38.7兆~45.6兆円1.4~1.5/kWh
シナリオ3全量直接処分30兆~38.6兆円0.9~1.1/kWh
シナリオ4当面貯蔵36.7兆~40.9兆円1.1~1.2/kWh

 直近では、2011年10月の原子力委員会(原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会)において、(1)全量再処理(シナリオ1と同じ)、(2)半分は20年後に再処理、残りは50年後に再処理(シナリオ2に近い)、(3)全量直接処分(シナリオ3と同じ)で再試算されている。この結果、割引率3%のケースで、(1)が約2.0円/kWh、(2)が1.4円/kWh、(3)が約1.0円/kWhとなっており、シナリオ1の全量再処理に関しては、若干コストがかさむ形となっている。ただし、この2011年の試算では総費用(○○兆円)という形では、数字は明らかにされていない。

■訂正履歴
本文3段落目最後で「・・・計画がベースとなっているのである(年間800万トンの再処理能力)。」としていましたが,「・・・計画がベースとなっているのである(年間800トンの再処理能力)。」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/02/18 11:45]