現在、原子力発電所の停止に伴う電力供給力不足や、地球温暖化への対策といった観点から、天然ガスに対する期待が高まっている。しかし、日本における天然ガスの産出量はごくわずかであり、そのほとんどを、LNG(液化天然ガス)の形で外国から輸入しているのが実情である。

 このような状況下で、近年、メタンハイドレート(通称:「燃える氷」)と呼ばれる氷状の固体物質に注目が集まっている。メタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタンが低温かつ高圧下において、シャーベット状に固化(体積比で約160~170分の1に凝縮して結晶化)したものである。

 このメタンハイドレートは主に深い海底の地層中に封じ込められている(もしく海底面に露出している)。メタンハイドレートが存在できる「低温かつ高圧」の条件について一例を挙げると、「50気圧下で6度以下」となる。水深500mの海底であれば、水圧によって圧力が50気圧以上となり、温度も4℃程度になるため、メタンハイドレートが存在する条件を満たすことになる。

 一方で、海底の地層中だとあまり深くなりすぎると、圧力は高くなるものの、地中熱で温度が上がってしまい、メタンハイドレートが存在できない条件となってしまう。このため、メタンハイドレートが海洋で存在し得る場所は、ざっくり言えば「水深500m以下の深海の地層数百m以内」となる(注:陸上では南極などの永久凍土でも埋蔵が確認されている)。

天然ガス生産量(2011年)【単位:億立方メートル】
参考:世界の天然ガス生産量と消費量(出典:BPエネルギー統計レポート2012)
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天然ガス消費量(2011年)【単位:億立方メートル】
参考:世界の天然ガス生産量と消費量(出典:BPエネルギー統計レポート2012)
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 メタンハイドレートは1930年代にシベリアで最初に発見されたと言われている。それは天然成分ではなく、シベリアにおいてパイプライン内の天然ガスが固化してしまうガスハイドレートという現象(パイプラインが詰まってしまい事故の原因となった)で認識されていた。その後、天然のメタンハイドレートの存在が各地で確認されるようになったが、産業技術総合研究所の調査によれば、世界のメタンハイドレート埋蔵量は、陸域では数十兆立方メートル、海域で数千兆立方メートルとの調査結果が出ており、世界の天然ガス確認埋蔵量(約200兆立方メートル:BPエネルギー統計レポート2012より)の数十倍以上に相当する。

 日本周辺海域(200海里内)でも、米国エネルギー省の調査では太平洋の南海トラフ(東海沖から宮崎県沖)の北側に最大で約4兆立方メートルのメタンハイドレートがあると試算されている。産業技術総合研究所の調査でも、日本周辺海域のメタンハイドレート埋蔵量を約6兆立方メートルと試算している。仮に、日本におけるメタンハイドレートの埋蔵量を6兆立方メートルとすれば、日本の天然ガス年間使用量(約1000億立方メートル)の約60年分に相当する。

 ただしコスト面を見ると、2011年のLNG輸入価格が約40~50円/立方メートルであるのに対し、採掘コスト(生産原価)は46円~174円/立方メートルと試算(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムの試算値)とされており、まだまだコスト高である。

 このような状況を踏まえ、日本では太平洋側の南海トラフを舞台に2013年1月から、メタンハイドレートの産出を試みる掘削が行われ、2018年度以降の将来の商業的開発に向けた技術課題の抽出が行われる。