リアルタイム市場とは、電力系統運用者注)が、給電エリア全体の需要量と供給量をリアルタイムに一致させるのに必要な需給調整能力(発電能力やネガワットなど)を手に入れるための調達市場のことをいう。

注)日本の場合、現段階では電力会社が垂直一貫体制であるため、電力会社の系統運用部門が該当する。

 このようなタイプの市場は、発送電分離が実施された諸外国ではよくみられる。その仕組みは、国や地域によってかなり違っていて、その呼び方も、リアルタイム市場、需給調整市場、予備力市場、バランシング市場など、バラエティに富む。また、リアルタイム市場の特別な形態として、アンシラリー市場と呼ばれるものもある。

 日本では、最終的な需給調整は電力会社が内部的に行ってきたため、リアルタイム市場が必要だという声は特になかった。ところが、東日本大震災後の計画停電や供給不足を踏まえて、自家発やネガワットなど電力会社以外の調整力を積極的に活用できる仕組みが必要だという声が有識者などから提起され始めた。政府の電力システム改革専門委員会においても、市場メカニズムによる効率的な需給調整機能を実現するべきだとして、リアルタイム市場の創設が検討されている。

 リアルタイム市場とよく混同される仕組みに「1時間前市場」がある。それぞれの機能は異なっており、相互に補完するものである。日本では、いずれの市場もコンセプト段階であり、決まっていないことが多い。これまで政府の電力システム改革専門委員会などで検討された両市場の特性を以下の表で比較してみる。

 リアルタイム市場1時間前市場
市場運営者通常は系統運用者通常は卸電力取引所
買い手系統運用者発電会社や小売事業者など市場参加者全て
売り手の要件指令から短時間(15分以内など)で出力変動できる発電所や需要家の負荷(ネガワット)など1時間後には発電できる発電所や削減できる需要家の負荷(ネガワット)など
入札締め切り1日前など1時間前など
価格の決定時期実需給の後実需給の前(1時間前)

 両市場の最大の違いは、1時間前市場は実時間に近いとはいえ、入札締め切り後の1時間に起こる需給の変化には対応できない。一方のリアルタイム市場は実時間の需給変化に対応できる点にある。

 実時間の需給変化とは、例えば急に風が吹いて風力発電の出力が上昇することもあるし、急に晴れて太陽光発電がフル出力になることもあるだろう。あるいは、火力発電所が突然のトラブルで停止するかもしれないし、気温により冷房需要が急上昇するかもしれない。このような急激な変化に対応するには、わずかな時間で発電出力を上げ下げできるタイプの発電所(火力・水力発電所や揚水発電所である)をいくつか確保して備えなければならない。素早く需給変化に対応できる能力のことは瞬動予備力(スピニングリザーブ)と呼ばれる。仮に、BEMSなどを駆使して急速にネガワットを変化させることができるようになれば、ネガワットも瞬動予備力として扱うことができるようになるだろう。

 リアルタイム市場では、系統運用者が、瞬動予備力を持つ発電所やネガワットをあらかじめ入札で募集しておき、実際の需給断面になったら、応札したものの中から価格の安い順に、必要量に至るまで追加の給電指令を出す。追加給電指令された電源のうち、最も高い入札価格が「リアルタイム価格」となり、精算は事後的に行われる。

 電力市場に参加する発電事業者や小売事業者が同時同量を達成できなかった場合に系統運用者に払うペナルティをインバランス料金というが、リアルタイム市場ができれば、このインバランス料金には「リアルタイム価格」が適用されることになる。

 なお、諸外国のリアルタイム市場の仕組みにはさまざまなタイプがあり、例えば欧米ではリアルタイム価格がマイナスになるケースがある。ネガティブ・プライスと呼ばれている。ネガティブ・プライスは、風力発電などの自然エネルギーからの出力が過剰となった場合などに発生し、そのタイミングで発電し過ぎると、逆にお金を払って引き取ってもらわなければならなくなる。

リアルタイム市場の概要
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