日本においても、一般電気事業者の「発電部門」と「送・配電部門」を分離する、いわゆる発送電分離の議論が経済産業省の電力システム改革専門委員会などで行われている。発送電分離の手法としては、今のところ主に(1)機能分離と(2)法的分離の2案で議論されている。ここでは、これらの議論のベースとなっている諸外国の事例(ISO/ITO)を紹介する。

(注)日本における発送電分離の議論は、配電網も送電網とセットで分離される方向で議論されているが、諸外国では、主に送電網のみの分離が行われている(配電網は小売り事業側に整理されているケースが多い)。

 ISO(Independent System Operator)は「独立系統運用機関」と呼ばれ、主に米国や欧州の一部で採用されている。具体的には、送電網の所有権は電力会社に残したまま、送電網の運用・管理を電力会社から独立した組織(どの電力会社にも属さない非営利会社)が担う。この独立組織がISOである。したがって、日本における発送電分離の議論のうち、(1)の機能分離にイメージが近い。

 米国におけるISOは、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)が1996年に規定したOrder888によって、その設立が奨励(注:義務ではない)されている。ISOは、管轄する域内の発電会社の電力供給計画を事前に集計し、電力需給のバランスを維持し、リアルタイムで周波数を維持する責務などを持つ。米国ではISOを広域化したものはRTO(地域送電機関:Regional Transmission Organization)と呼ばれ、ISOの機能に市場参加者からの独立性や送電網拡張計画の策定責任などの要件が付け加えられる。米国でISO(RTO)を採用している州は、カリフォルニア、テキサス、マサチューセッツ、ニューヨークなどである。

 一方のITO(Independent Transmission Operator)は「独立送電運用機関」と呼ばれ、主に欧州の一部で採用されている。具体的には、送電系統の所有権と送電系統の運用・管理は電力会社(子会社)にそのまま残しつつ、独立性を保証するための厳しい規制・監視を適用する手法である。日本では発送電分離の議論のうち、(2)の法的分離にイメージが近い。

 欧州におけるITOは、欧州委員会が2009年に規定した第三次EU電力自由化指令で規定されている(EU加盟国は、ISO方式、ITO方式、所有権分離方式の三つの発送電分離方式を選択できる)。当初、EU委員会は、ITO方式は認めない方針だったが、独立した送電計画策定と資金調達を行うことを前提に認められた。また、送電系統部門の経営責任者は、グループ内の発電、配電、小売を行う事業のいかなる部門にも所属してはならないことになっているため、子会社化(もしくは持株会社方式)により資本関係を維持する事業形態が主に取られている。

 ちなみに、フランスではEDF(フランス電力会社)の子会社であるRTE社が送電系統の所有権と送電系統の運用・管理機能を一元的に担っている。ドイツではITOを検討中だという。

欧米におけるISO/ITO
[画像のクリックで拡大表示]