HEMSはHome Energy Management Systemの略で、家電機器、特に白物家電や太陽光発電装置などのエネルギー機器、さらにはセンサー類を家庭内通信ネットワーク(Home Area Network)で相互に接続し、エネルギーの見える化や消費の最適制御を行う仕組みを言う。

 見える化機能は、家全体や分電盤の回路ごとの電気使用量を、30分単位や1時間単位に表示できるものが多い。分電盤の回路ごとに表示できるシステムであっても、エアコンなどの電気を多く消費する機器の場合は、分電盤から単独の回路になっていることが多いため、この回路の電流を測ることにより、その機器単体の電力消費の様子がわかる場合が多い。システムによってはさらにコンセント単位や機器単位での消費電力を表示できるものもあり、冷蔵庫のように瞬間の使用量は大きくないが長時間使用している家電機器の使用状況までもがわかるものもある。また発電設備や充電池がある場合は、それらの発電量や充放電量、電力会社への売電量なども表示するのが一般的である。

 制御機能は、従来はエアコンや照明のような電気を多く消費する機器のHEMS接続が中心だったこともあり、省エネを主目的とする制御が中心だった。しかし、白物家電単体の省エネ性能が大幅に向上しているため、逆にHEMS制御による省エネ余地はあまり大きくないのが現実である。一方、現在では太陽光発電装置や蓄電池、さらには電気自動車までもがHEMSの接続対象となっており、エネルギーを「創る」「蓄える」「上手に使う」という統合制御を目的としたシステムが増えてきている。このような統合制御はHEMSの得意とする分野であり、今後さらに進化しそうである。さらに、電力会社の電力供給が厳しい場合に、ユーザー側が需要を抑制する“デマンドレスポンス”などと連携した節電(ピークカット)制御についてもHEMSは大きく期待されている。

HEMSの概念図
HEMSの概念図

 その一方でHEMSには解決すべき課題が三つある。

 一つ目は異なるメーカーの機器の相互接続問題である。相互接続するためには、制御コマンドと、無線などの通信メディアのそれぞれを標準化する必要がある。制御コマンドについては、まだ世界的な業界標準仕様はなく、米国はSEP2.0、欧州はKNXという方式を推奨している。日本ではJSCA(スマートコミュニティアライアンス)のスマートハウス標準化検討会での取りまとめ結果としてECHONET Liteを推奨方式とすると、2012年2月に経済産業省が発表している。一方、通信メディア(例えば、無線であるとか、電灯線通信など)の標準化については、JSCA内のHEMSタスクフォースで検討が進んでいる。

 課題の二つ目はセキュリティである。HEMSにもウイルスやなりすましのような、パソコンと同じ情報セキュリティの問題が存在する。さらに、こうした問題以外にも留意すべき点がある。HEMSの対象機器は、エネルギーを扱い、熱を発生させるものもある。このため、機器の誤動作などにより、ユーザーが怪我ややけどなどを負う危険性は、情報機器よりも高いといえる。そこで、このような危険性を事前に想定し、充分に対策したうえで普及させていく必要がある。このあたりは、国や業界によるルール化が望まれる。

 課題の三つ目はアプリケーションである。もちろんエネルギー管理・制御は重要だが、それだけでは消費者の目に見えるメリットは少なく、HEMSの普及は難しいと言われている。エネルギーの最適利用などにとどまらない魅力ある付加価値アプリケーション(例えばヘルスケアや防犯など)の登場が望まれている。このためには、スマートフォンの世界のようにサードパーティが自由にアプリケーションを開発・販売できる仕組みづくりが必要であると考えられている。この場合、仮にいたずらを仕込んだアプリケーションが現れても、ユーザーに被害が及ばないようにするためのセキュリティ強化も重要になる。