東日本大震災では、大型火力発電所や原子力発電所の被災・停止により東京電力管内で“計画停電”が実施され、市民生活や経済活動に大きな影響が生じた。その際に言われたことが、健全であった中部電力以西の電力を東京電力エリアに送電できなかったのか、ということである。

 実は、この仕組みはすでに確立されており、東京電力(50Hz)と中部電力(60Hz)間で周波数を変換して電力をやり取りする設備をはじめ、沖縄電力を除く全ての電力会社の電力系統(この場合は送電線網)は相互に接続されている。相互接続するための周波数変換設備や送電線を総称して「系統連系設備」と呼ぶ。電力系統を連ねることから、「連系」の文字を用いている。そして、この設備を活用して相互に電力を融通し合うことを「広域運営」という。これは、電気事業法第28条に規定された電気事業者の義務でもある。

 なお、広域運営には、電力そのものの融通のみならず、非常災害時の要員融通や資材の相互融通も含まれている。沖縄電力以外の全電力会社、電源開発株式会社、資源エネルギー庁(参与)によって実施体制を整えるため、中央電力協議会が組織されている。

 さて、電力系統が相互接続されているのに、なぜ東日本大震災の際には、東京電力は計画停電を実施せざるを得なかったのだろうか。計画停電は需要の大きさ(消費電力)がおよそ500万kWになる地域を一つのまとまりにして実施された。一方、東京電力-中部電力の系統連系設備は3個所(新信濃周波数変換所、佐久間周波数変換所、東清水周波数変換所)あるが、全てを合計しても最大流通可能量は103.5万kWである。もちろん、東北電力と東京電力も大容量の系統連系設備(連系送電線)で相互接続されているが、東北電力の発電所も数多く被災・停止してしまったため、500万kWという大量の電力を相互融通することはできなかったのである。

 このような事実を踏まえ、2012年7月に発表された経済産業大臣の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」の電力システム改革専門委員会の基本方針では、50Hz/60Hzの系統連系設備(周波数変換設備)について、2020年度を目標に210万kW、そしてそれ以降のできるだけ早い時期に300万kWまで増強するとした。

 系統連系設備は、非常時の電力融通のみならず、日常的に多くの事業者によって多目的に使用される。例えば水力発電用の水が十二分にあって、発電コストの安い電力を豊富に発電できる場合などは、それを他の電力会社に計画的に送電したりする。また、新電力が複数の電力会社の送電線網を跨いで発電所から顧客に送電する場合もある。このため、使用に関わる諸条件などを透明性のあるルールにまとめ、それに則った日々の系統連系設備利用の連絡調整を行う機関として、電気事業法第6章に規定された送配電等業務支援機関「一般社団法人 電力系統利用協議会」が設置され、その任に当たっている。

日本の電力系統連系設備
日本の電力系統連系設備