一般にベースライン(Base Line)とは、時間的な変化量を測るときの基準線を意味するが、電力用語での「ベースライン」とは、ネガワット取引による需要家の負荷削減量を測るときの基準値またはその計算方法を指す。

 ネガワット取引において、需要家の負荷削減量は発電所の発電量と同等に市場取引される。このとき、負荷削減とは「いったい何と比べて削減されたと見なすのか」を市場参加者間でルールを決めておく必要がある。発電量ならば「ゼロkW」がベースラインで良いが、削減量の方は何をベースラインにすれば良いのだろうか。

 省エネについては、一度実施したらその後もずっと削減が継続するため、単純に省エネ実施前の負荷をベースラインにすれば良い。しかし、ネガワットは、地域全体の電力需要に供給が追いつかなくなりそうなときなどの一時的な負荷削減を行うものなので、負荷削減の必要が無くなれば元に戻る性質がある。このため、単純に「昨年同日の負荷」や「昨年の最大負荷」などをベースラインにするといろいろな問題が生ずる注)

注)ベースラインを昨年同日の値とすると、その日が休日などで非常に使用量が少なかった場合は今年の対象日は削減不可能となったり、その日が何らかの理由で非常に使用量が多かった場合は何もしなくても削減したことになってしまう問題がある。昨年の最大負荷とすると、多くの日が何もしなくても削減したことになってしまうし、節電とは別の理由で休業や事業縮小した需要家が有利になってしまう問題もある。

 そこで、ネガワット取引市場で先行する海外(主に米国)では、「もしもこの需要家がネガワット取引による負荷削減を行わなかったとすると、このくらいの電力を使っていたであろう」という予測計算値をベースラインにするケースが多い。

 例えば、工場やオフィスビルの需要家に対するベースラインとしては、以下のような予測計算方法を採用している。

(1)ある需要家に対して、対象日から過去10日間の営業日のうち、電力使用の多かった5日の負荷を一定時間間隔でサンプリングし、この平均値をまずは暫定ベースラインとする(ネガワット発生日などの特殊日は除外)。
(2)対象当日の朝、その需要家の活動状況(実際の負荷)を見てベースラインを調整。
(3)ベースラインは、個々の需要家ごとに設定する。

 上記の計算方法は、過去何日間のうち何日を選ぶのか、サンプリング間隔は当日の調整は行うか否かなどについて様々なバリエーションを作ることができる。

 日本では2012年夏に、関西電力が節電対策の一環としてネガワット入札の仕組みを導入した。同社のネガワット算定ベースラインは「前週の同じ曜日」だった。同じ季節で同じ曜日なら概ね電気の使い方は同じだろうというシンプルな考え方である。ただし、前週の同じ曜日が休業日だったり、非常に涼しい日だったりすると、予測値としては不適当になる可能性もある。

 なお、ベースラインの設定およびネガワットの計測のためには、一定間隔(例えば30分間隔)で使用電力量(=負荷)を計測・伝送できる遠隔監視電力センサーやスマートメーターが必要になる。

予測計算によるベースラインのイメージ
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