国内での電気事業者は、これまでの電力制度改革によって多様化してきた。この結果、一般電気事業者(北海道電力から沖縄電力までの地域の電力会社で計10社)のほか、卸電気事業者、特定電気事業者、特定規模電気事業者などが存在する。このうちの特定規模電気事業者のことを「新電力」と呼ぶ。

 従来、電力の小売事業は電気事業法による参入規制よって、地域の電力会社(一般電気事業者)が地域を独占することが認められてきた。ところが、規制緩和(電力小売市場の段階な自由化の拡大)により、平成12年度(2000年度)から電力小売事業への新規参入が順次認められるようになった。これを受けて、全国各地で一般電気事業者の供給区域(営業エリア)に新規参入した電力小売事業者が「新電力」である。

 現時点での電力小売市場の自由化の範囲は、契約電力が50kW以上(特別高圧契約および高圧契約)の需要家であり、工場、オフィスビル、スーパーなどが自由化対象となっている。逆に、一般家庭(電灯契約)やコンビニ(低圧契約)は、自由化の対象とはなっていない。

 これにより、自由化対象範囲の需要家(電力ユーザー)は、経済性や供給サービスの観点で、電気の小売事業者を「選択」することができる。

 「新電力」の正式名称は、先述したとおり特定規模電気事業者だが、ごく最近までは、略称としてPPS(Power Producer and Supplier)と呼ばれていた。「新電力」という呼び名が使われるようになったのは、2012年3月初旬に枝野経済産業大臣が、「新電力」に名称変更することを直々に発表してからである。福島第一原子力発電の事故後、電力自由化に関心が集まる中で、PPSでは分かりにくいと判断したためである。

 2012年10月30日現在、「新電力」として経済産業省に届出されている事業者は、68社である。ただし、実際には電力小売事業を行っている事業者は30社程度のようだ。

 代表的な「新電力」としては、エネット(NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガス)、JX日鉱日石エネルギー、サミットエナジー(住友商事)、F-Power、昭和シェル石油、丸紅、新日鉄エンジニアリング、ダイヤモンドパワー(三菱商事)、日本テクノが挙げられる(カッコ内は主要な親会社)。このほか、日本製紙、オリックス、パナソニックなどが新規参入した。規制緩和により、多種多様な異業種が電力小売市場に新規参入したと言える。

 ちなみに、霞が関にある経済産業省の庁舎の電力契約先は、2000年度の電力自由化以降、新電力となっており、2012年度はF-Powerと契約が結ばれている(通常は一般競争入札だが、2012年度分は応札者がいなかったことから随意契約)。

 国内の電力小売市場のうち販売電力量ベースでは、全体の約6割(2011年度時点で62%)が自由化されている。経済産業省の発表によると、この約6割の自由化市場の中で、新電力の占めるシェアは全国ベースで3.56%、年間販売電力量で約200億kWh(いずれも2011年度の値)である(このうちの約100億kWhがシェア1位のエネット)。

 このシェアの多寡については様々な意見があるが、象徴的な出来事としては2012年5月に東京都の猪瀬副知事が枝野経済産業大臣に対して「新電力のシェアは30%を目指すべき」と提言した。その理由は「東京都としては東京電力以外の契約先を真剣に模索したが、新電力のシェアが3.5%に留まっているため、選択できなかった」(猪瀬副知事)ためである。

 新電力のシェアがなかなか増えない理由としては、様々な要因があると思われるが、大きな理由(ボトルネック)は以下の4点である。

(1)一般電気事業者による電気料金の値下げ攻勢
(2)託送コストの高止まり
(3)コスト競争力の高い発電電力の調達の困難さ
(4)同時同量の義務

 このような課題解決のために、新電力の競争力強化を図ろうと、現在経済産業省で「電力システム改革」の検討が進められている。

新電力の電力供給の仕組み
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