液晶パネルを製造の観点から見ると,TFTアレイ工程,液晶セル工程,液晶モジュール工程の三つに分類できる。各工程では,特有の製造装置や部品・材料が使われている。このような液晶パネル製造工程のうち,特にTFTアレイ工程と液晶セル工程は液晶パネルの表示性能を左右する重要な工程である。特にTFTアレイ工程は,パネルの製造コストに与える影響も大きい。

 TFTアレイは,液晶を駆動する電気回路機能を持つ基板である。ガラス基板上にTFTと表示画素電極が配列されており,各TFTを駆動するためのゲート配線と,画素に書き込む電圧信号を送るための信号配線が縦横に走っている。

 TFTアレイ工程は半導体の製造工程と似ている。Siウエハー上に半導体回路を作り込むのと同様に,成膜,フォトリソグラフィ,エッチングの工程を繰り返して,ガラス基板上にTFTアレイを作り込む。このようなTFTアレイの各工程で使われる製造装置も,原理的には半導体の製造装置と同じである。この製造装置の性能が,完成後の液晶パネルの性能に影響する。同時に,製造装置の生産性(ガラス基板の処理能力やプロセス材料の使用量)や,製造装置の集合体である製造ライン全体の効率が,液晶パネル・コストに大きく影響する。

TFTアレイの製造工程
テック・アンド・ビズのデータ。
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 例えば,製造ラインの生産性を上げていくために,マスク数削減の努力が長年続けられている。マスク数とは,成膜工程,フォトリソグラフィ工程,エッチング工程の繰り返しの数である。このマスク数削減は,液晶パネル製造の革新技術の中でも大きな役割を果たしてきた。例えば,1980年代半ばに松下電器産業(現 パナソニック)が初めて商品化した3型カラー液晶テレビ用のパネルは,8枚マスクの工程によって製造していた。その後,液晶パネル各社はTFTアレイの工程数を減らして投資金額を抑えるために,マスク数削減の開発を積極的に進めた。現在では4枚マスクまで工程数削減が進んでいる。

 また,パソコン向けやテレビ向けの液晶パネルの大画面化を支えてきた特筆すべき技術が,ガラス基板の大型化である。1990年代初めのTFT液晶パネル量産開始当初は300mm×400mm前後の第1世代基板が使われていたが,現在では2880mm×3130mmの第10世代基板まで大型化が進んでいる。液晶パネルの画面サイズが大きくなると,そのままでは1枚のガラス基板から取れるパネル枚数が減少し,生産効率が落ちてしまう。これを補うためにガラス基板の大型化は必須だった。液晶用ガラス基板はSiウエハーの数倍の面積を持つ。また,ガラス基板面積の拡大はSiウエハー面積よりも速いスピードで進んできた。ガラス基板寸法の拡大は,応用製品動向だけではなく,その時々の時代の動きにも影響を受けてきた。