街角の看板やポスターを電子化して動画を表示可能にしたもの。欧米を中心に,2004年ごろから年率20%超で市場が拡大している。駅や繁華街,ホテル,ファストフード店に設置したり,各種の自動販売機などに内蔵したりする形が多い。以前からLEDなどを用いた超大型の電光掲示板はあったが,最近は液晶パネルやプロジェクターを用いたものが増えているのが特徴である。

 2008年の市場規模は全世界の出荷台数が約300万~700万台,売上高は約110億米ドルになると野村総合研究所(NRI)や米iSuppli社などは予測する。2008年の薄型テレビの出荷数が全世界では約1.1億台(韓国Displaybank社調べ)であるから,台数比で2~6%にすぎない。特に日本では,「2007年に10万2630台」(富士キメラ総研)と,市場が始動したばかりという状況である。

 デジタル・サイネージが今,話題になる背景には大きく二つの要因がある。一つは,薄型テレビ・メーカーの生き残り策だ。売り上げベースで見ると,薄型テレビ市場は既に頭打ち傾向にある。過当競争により市場から撤退するメーカーもある中,メーカー自身が新市場を必死に開拓しているのである。もう一つは,ブロードバンドやデジタル放送といった,比較的低額で大容量のデータを伝送する手段の普及である。通信事業者の多くはデジタル・サイネージをパソコンや携帯電話機とは異なる第3のデータ受信端末と見なし,広告会社と連携しながら市場拡大を進めている。ただし今のところ,デジタル・サイネージのビジネスでは,システムの売り手側の思惑が先行しているのは否めない。デジタル・サイネージによる広告の効果についての評価が定着して初めて,本当に市場が拡大し続けるかどうかが分かるだろう。

 興味深いのは,デジタル・サイネージが薄型テレビにはない新技術の育成や実験の場になりつつある点だ。街を歩く人の足をいかに止めるかが勝負である一方で,放送向けの規制などに縛られない自由があるためだ。例えば,米NewSight Corp.は,3次元映像を裸眼で見られる同社の3Dディスプレイ製品が「全世界で年間約4000台のペースで売れている。今後,日本でも大規模に展開したい」(日本法人であるニューサイトジャパン)とする。日本では,画像に合わせて料理の香りを出す実験や,画面を見る人の顔や人数を認識するセンサを搭載して,広告を臨機応変に変える実験も始まっている。こうした場で育った技術が将来,テレビに反映される可能性もある。

新技術の実験場に
デジタル・サイネージは,ディスプレイに関するさまざまな新技術の実験の 場になりつつある。例えば,3D映像を裸眼で見られるディスプレイ,カレ ー料理店の店舗情報をカレーの香りとともに紹介するディスプレイ,顔認 識によって見る人に合わせた広告を表示するディスプレイ,携帯電話機な どとコンテンツをやり取りできるディスプレイなどが開発されている。