「次世代エレクトロニクスの基幹材料」(韓国Samsung Electronics Co., Ltd.のディスプレイ部門の幹部)と,世界のディスプレイ技術者が注目するのが酸化物半導体TFTである。超高精細の液晶パネルや有機ELパネル,電子ペーパー。こうした次世代ディスプレイを駆動するTFT材料の最有力候補の一つだからだ。早ければ2012~2013年までに実用化が始まるとされ,将来は,“フレキシブル”や“透明”といった特徴を備える電子デバイスの実現手段にもなりそうだ。

 酸化物半導体は,通常は絶縁体になりやすい酸化物でありながら,半導体の性質を持つ。いくつかの種類の中で特に注目度の高いのが「透明アモルファス酸化物半導体(TAOS:transparent amorphous oxide semiconductors)」である。アモルファスIGZO(In-Ga-Zn-O)が代表例である。Samsung社や韓国LG Display Co., Ltd.といった韓国勢のほか,日本ではシャープや凸版印刷,キヤノンなどがTFTへの応用開発に注力している。

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 TAOS系TFTは,キャリア移動度が10cm2/Vs以上と高く,特性バラつきも小さい。そのため,画素数「4K×2K」(4000×2000画素級),駆動周波数が240Hzといった次世代の高精細液晶ディスプレイを駆動できる。現行の標準技術であるアモルファスSi系TFTや,次世代技術として開発が盛んな有機半導体TFTは,キャリア移動度が数cm2/Vs以下と低いため,こうした用途には対応しにくい。有機ELディスプレイでも,開発事例が多い低温多結晶Si系TFTに比べて,大画面化ではTAOS系TFTが有利である。有機ELパネルで問題となる,TFTの特性バラつきによる表示ムラを抑えられるからだ。TAOS膜はスパッタ法で形成できるため,製造コストも下げやすい。

 製造プロセス温度を室温近くまで下げられる点も,TAOS系TFTの大きな魅力である。耐熱性に乏しい樹脂基板を利用できることから,折り曲げられる電子ペーパーなど,フレキシブルなディスプレイを実現できる。TAOS膜が備える透明性を生かせば,電子デバイスを透明化するような使い方も可能だ。

 酸化物半導体の用途をさらに広げる上で課題となるのが,p型半導体の実現である。高品質のpn接合を作製できるようになれば,透明でフレキシブルな集積回路やLED,太陽電池などの応用が見えてくる。