図13 低体温多結晶Si-TFTの構造の例
[画像のクリックで拡大表示]

 低温で多結晶化させたSiによるTFTを使ったのが,低温多結晶Si TFTである。キャリア移動度を高めることができるので電流駆動能力が上がり,またnチャネルTFTとpチャネルTFTが形成できることから,ディスプレイの機能に加えて,CMOS回路をベースにした周辺駆動回路やSRAM回路,D-A変換器などをガラス基板上に一体集積化することができる。音声処理回路や簡単なマイクロプロセサを搭載した液晶パネルも開発されている。

 周辺駆動回路を一体化することで,信頼性を向上できる。パネルと駆動回路との電気回路接続数を激減できるからである。狭額縁化や軽量化,さらに振動にも強くなり,携帯情報端末への展開が期待されている。また,電流駆動能力が高いことから,より高精細な画素や開口率の高い画素の実現に期待がかかっている。

 製法は次の通りである。まず力ラス基板上にプラズマCVDを使ってアモルファスSi膜を形成する。次に,TFTとしての性能(電圧一電流特性)を向上させるためにアモルファスSiを結晶化させる。この結晶化は,450℃以下の基板温度でエキシマ・レーザを照射することによって行われるのが一般的である。レーザ光のエネルギーでアモルファスSi膜は瞬間的に溶融凝固するために平均結晶粒径0.3μm程度の多結晶Siに変わる。

 低温で多結晶Si膜を形成できるため,アモルファスSi TFTの量産ラインとの相性が良く,多くの装置を転用できる。キャリア移動度200cm2/Vsに達する低温多結晶Si TFTが製品に使われている。研究レベルでは,レーザ照射技術の工夫で500cm2/Vsを超える値が報告されている。