結晶構造の歪みによって生じた圧電分極によって発生する電界。InGaNなどGaN系半導体を発光層にしている青色LEDや緑色LEDの外部量子効率を低下させる一因となる。LEDにとどまらず,青紫色半導体レーザの消費電力低減技術,さらには緑色半導体レーザを実現する技術としても注目を集めている。
例えばInGaN系LEDの市販品では,GaN結晶の極性面であるc面(0001)を成長面とし,その法線方向(c軸)を成長軸としてInGaN層などを積層している。その際,成長軸であるc軸方向にピエゾ電界が生じてしまう。このことが原因となって発光層に注入される電子と正孔が離れ,発光に寄与する再結合確率が低下する。そのため内部量子効率が低くなり,外部量子効率の低下につながる。
c軸方向にピエゾ電界が生じるのは,InGaN層の結晶構造が歪んで圧電分極が生じるためである。InGaN層を構成するInNとGaNのa軸方向の格子定数に差があることが原因だ。圧電分極のほかInGaN層には結晶構造上,自発分極も生じる。ただし圧電分極のほうが大きいため,自発分極による電界はピエゾ電界に比べて非常に小さい。
ピエゾ電界はc軸方向に沿って発生するので,InGaN層の成長軸をc軸方向から傾いた方向に設定すれば,成長軸方向へ及ぼすピエゾ電界の影響を弱められ,外部量子効率の向上につながる。そこで,GaN結晶のc面に垂直なa面やm面と呼ばれる非極性面,あるいはc面に対して傾いた半極性面と呼ばれる面を成長面とし,それぞれの面の法線方向を成長軸としてInGaN系LEDを作る研究が盛んになりつつある。