バンドギャップが小さい極めて薄い層をバンドギャップが大きい層で挟み込んだ構造のこと。バンドギャップが小さい層のポテンシャルは周囲(バンドギャップが大きい層)よりも低く,ポテンシャルの井戸(量子井戸)ができている。LEDや半導体レーザなどにおいて,量子井戸構造を光を放射する活性層に用いている。量子井戸を複数重ねた構造は多重量子井戸(MQW:multi quantum well)と呼ぶ。

 青色LEDなどは,量子井戸構造といったGaN系結晶層の層構造を改良することで発展してきた。GaN系LEDはMIS(metal-insulatorsemiconductor)構造,pn 接合型ダブルヘテロ構造,単一量子井戸を採用したダブルヘテロ構造,多重量子井戸を採用したダブルヘテロ構造となるにつれ,輝度や色純度が高まる。MIS構造の青色LEDは,p型GaN膜が作製できない時期に,開発・製品化されていた。光度が数百mcdしか得られないという欠点があった。その後,p型GaN膜を作製できるようになったため,pn接合型ダブルヘテロ構造を採用した青色LEDが実現可能になった。MIS構造に比べて約10倍の発光輝度である1cdを達成できた。多重量子井戸構造で置き換えると発光光度がさらに増し,さらに色純度が高まる(発光スペクトルの半値幅が狭くなる)。

 ダブルヘテロ構造とは,LEDや半導体レーザなどにおいて,活性層の両側に活性層よりもエネルギー・ギャップが大きいクラッド層を設けた構造のこと。電子と正孔を活性層内に閉じ込める効果がある。このため,発光素子にダブルヘテロ構造を採用すると光出力を高められる。なお,活性層の片側にのみエネルギー・ギャップが大きいクラッド層を設けた構造をシングルヘテロと呼ぶ。

GaN系青色発光ダイオードの構造の変遷
GaN系青色発光ダイオードの構造の変遷
(a)はMIS(metal-insulator-semiconductor)構造を採用したの青色LEDの素子構造。(b)は多重量子井戸(MQW:multi quantum well)構造の青色LED。