ガリウム(Ga)と窒素(N)で構成する化合物半導体。バンドギャップが3.45eV(光の波長で約365nmに相当)とSiより3倍広い。この特性を生かして,主に光デバイスでの応用例が多い。インジウム(In)やアルミニウム(Al)を混ぜてバンドギャップを調整することで, LEDや青紫色半導体レーザといった発光デバイスが既に実用化している。

  GaNはバンドギャップが広いため,青色や緑色といった比較的短い波長の光を発生できる。青色LEDや青紫色半導体レーザでは,GaNにInを加えたInGaNを用いている。バンドギャップの広さ以外にも,GaNは絶縁破壊電界が高い,電界飽和速度が大きい,熱伝導率が高いといった,半導体材料として優れた特性を備える。さらに,HEMT(high electron mobility transistor)構造を取るGaN系半導体素子はキャリア移動度が大きく,高周波素子に適する。「2次元電子ガス層」と呼ばれる,高速に電子が流れる領域が発生するからだ。しかも,絶縁破壊電界はSiやGaAsより大きいので,耐圧が高く,より高い電圧を印加できる。このため,携帯電話基地局などの高周波パワー・アンプ回路にGaN系HEMTを利用すると,電力付加効率が向上し,消費電力を抑制できる。

 最近では,インバータやコンバータといった電力変換器などで用いるパワー素子としても期待を集めている。Si製パワー素子と比較して,電力損失を大幅に低減できるためだ。絶縁破壊電界が高く,素子を薄くしてオン抵抗を小さくできるので,導通損失が低減する。

  GaN系パワー素子は,電力変換器の小型化にも向く。Si製パワー素子に比べて,高いスイッチング周波数で動作可能で,周辺部品を小型化できるためである。加えて,熱伝導率が高いため,冷却機構を小さくできる。こうした理由から,サーバー機や,ハイブリッド車や電気自動車,白物家電を手掛けるメーカーなどが,GaN系パワー素子に注目している。サーバー機の電源には,2011年にも搭載されそうだ。

SiとGaAs,SiC,GaNの材料物性比較
SiとGaAs,SiC,GaNの材料物性比較