有機化合物によるEL(electroluminescence)現象を利用したデバイスのこと。ディスプレイで実用化しているほか,最近では照明用途でも注目を集めている。

  ディスプレイに有機ELを用いたものが,有機ELパネルである。有機ELパネルは液晶パネルと異なり,バックライトが不要である。さらにPDP(plasma display panel)やFED(field emission display)のような真空構造を持たない。ガラス基板上に薄膜形成するだけで製造できるため,薄型,軽量化に向く。応答時間が数μ秒と短いこと,視野角が170度以上と広いことも優位点となる。

  有機ELパネルは,材料を発光させる方法によって二つの方式に分かれる。一つは,格子状に形成した電極によってラインごとに有機EL材料を発光させるパッシブ・マトリクス型(単純マトリクス型とも呼ぶ)。もう一つは,TFT基板を用いて画素ごとに有機EL材料を発光させるアクティブ・マトリクス型である。パッシブ・マトリクス型は携帯型音楽プレーヤーや車載オーディオ機器への採用例があり,アクティブ・マトリクス型は携帯電話機のメイン・ディスプレイや薄型テレビなどで実用化している。

  有機ELを照明に用いたものが,有機EL照明と呼ばれる。以前から研究開発は進められてきたが,ここにきて輝度や寿命といった特性が照明に使える水準に達し,有機EL照明の現実味が高まっている。有機EL照明には,従来の照明にない特徴がいくつかある。「面発光」「透明」「薄型・軽量」にすることが可能という点である。

  面発光であることから,壁や天井全体を発光させる壁照明を比較的容易に実現できる見込みである。面発光は蛍光灯などが備える特徴で,導光板などの光学部品を利用すればLEDでも実現可能だ。ただし,有機EL照明では光源自体が面発光し,しかもその形状に制約がない。薄型を保ったまま発光面を数十cm~1m角以上と,大幅に拡大できる可能性もある。

蛍光灯や白色LED照明に対する優位点
有機EL照明は,面発光であることが他の照明技術に対する大きな特徴の一つである。蛍光灯や白色LED照明と比較すると,面発光以外にも有機EL照明ならではの特徴がいくつもあることが分かる。
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  透明にできるという点に注目しているのは欧州のメーカーが多い。透明にできるということは,単に装飾性を高められるというだけでなく,生活環境にあるガラスやプラスチックがそのまま照明器具になる可能性があることを意味する。フロントライトとして利用すれば,周囲が暗いと表示面が読みにくくなる電子ペーパーの欠点を補うことができる。

  薄型・軽量という特徴も,既存の照明に対する大きな優位点である。有機EL照明の発光部自体の厚さは1μmに満たず,基板と合わせても厚さ1mmをはるかに下回る。フレキシブルな基板上に有機EL照明を作製して紙のように丸められる携帯型照明なども実現可能とみられている。このほかにも,水銀を使わないこと,紫外線が出ないこと,反射板などの器具を利用しないことなど,いくつも優位点がある。

LEDに類似する構造

 発光有機層を二つの電極で挟んだ構造が有機ELデバイスの基本構造になる。この構造は,LEDに類似しているため,OLED(organiclight emitting diode)とも呼ばれる。発光有機層の光を外に取り出せるようにするために,電極の片方はITO(indium tin oxide,スズ
をドープした酸化インジウム)などの透明電極が使われている。

  この二つの電極から注入された正孔と電子が移動(輸送)し,互いに出会って再結合し,有機材料中にエネルギーが与えられ,ルミネッセンスが生じる。つまり有機ELは電流注入型のデバイスである。これに対して,無機ELは交流電圧印加型のデバイスである。

  ルミネッセンスは,厳密には蛍光とりん光に分類できる。現象的には励起を止めた後に直ちに発光も止まるものを蛍光,励起を止めた後にも残光が見られるものがりん光と定義される。最近ではより正確に,蛍光は一重項励起状態から基底状態への遷移に伴う発光,りん光は一重項以外の励起状態(三重項など)から基底状態への遷移に伴う発光と定義されている。りん光は原理的には,すべての励起状態を利用することが可能であり,最高100%の内部量子効率も理論的には可能である。