白色LEDを使った自動車のヘッドランプのこと。2007年5月17日にトヨタ自動車が発表した最上級ハイブリッド車「レクサスLS600h」に,白色発光ダイオード(LED)を使ったヘッドランプが世界で初めて載った。寿命は1万時間と長く,点灯に要する時間はわずか0.1秒にすぎない。消費電力はHIDランプの普及品より少なく,ハイエンド品と同等だが,さらなる改良によって今後,より低くなる見込みだ。

輝度を上げ,消費電力を下げる工夫

 白色LEDの技術進化は著しく,蛍光灯やHIDランプを上回る100lm/Wという発光効率を誇る品種も出てきた。白色LED 1個当たりから取り出せる光束は100lm以上の品種も多く,照明への応用が加速している。このヘッドランプでは光束400lmの白色LEDを5個使い,ロー・ビームに必要な明るさを実現した。開発したのは小 糸製作所である。

  開発には,輝度の確保や消費電力の低減,発熱対策といった課題があったという。輝度は,最低でもハロゲン・ランプと同等の20Mcd/m2が必要だった。既存の白色LEDは数Mcd/m2しかない。そこで約1mm角の大型青色LEDチップをパッケージ内に4個搭載し,1チップ当たり2.5W(投入電流700mA),合計で10Wを投入できるようにした。これにより輝度25Mcd/m2を稼ぎ出した。

 しかし,1チップに大電力を投入すると発光効率は落ちる。HIDランプに比べるとヘッドランプの実稼働状態で発光効率は40lm/Wと低く,消費電力が大きくなってしまう。そこで小糸製作所は,光を有効利用するようにした。具体的には,複数個搭載する白色LEDランプにそれぞれ異なる配光特性を与え,配光パターンを作り出している。1個のランプで複雑な配光パターンを作る場合に比べ,光損失を減らせた。

 さらに遠方照射に使う白色LEDランプの構造を見直した。このランプでは水平線よりも下方を照射する配光パターンが要る。従来の手法では光を遮ることでパターンを作り出していたが,今回は水平線よりも上方に向かう光を「ビーム・シェイパー」という鏡を使って光路変更させている。これらの対策で,白色LEDが発する全光束の半分以上をヘッドランプ外に取り出せた。全光束の1/3程度しか取り出せないHIDランプやハロゲン・ランプに比べて効率が格段に高い。その結果,ハイエンド品のHIDランプを使う「レクサス LS460」のヘッドランプと,消費電力を同等にできた。

ロー・ビームに白色LEDを5個使用
ロー・ビームに白色LEDを5個使用
小糸製作所が開発した,トヨタ自動車の「レクサスLS600h」に搭載されるヘッドランプは,ロー・ビーム向けに白色LEDランプを5個使う。各白色LEDランプには,白色LEDモジュールを1個搭載する。

発熱が課題

 寿命を確保するため,発熱対策にも工夫を凝らしている。今回はLEDヘッドランプ・モジュールを,HIDランプを使うLS460と同じ実装スペースに収めなければならず,限られた形状の中で発熱対策を採る必要があった。そこで,まずLEDチップを接合温度が150℃と高くなっても使えるように改良した。

 次に,チップを上から封止する材料にガラスを使い,点灯時の発熱による劣化を抑えた。一般的な封止材料であるエポキシ樹脂やシリコーン樹脂に比べて劣化しにくく,接合温度115℃で8000時間連続点灯させても輝度は低下しない。他社品は5000時間を経過した時点で10%以上劣化するという。

 さらに,白色LEDの熱を逃がすためにランプの筐体に放熱フィンとヒート・パイプを設けた。LEDヘッドランプの試作機では,放熱フィンと冷却ファンでランプを放熱する例が多々見られる。ただし,冷却ファンを設けると,ヘッドランプ・モジュールが大きくなってしまう。そのため,内部に純水をためたヒート・パイプを活用し,冷却ファンを用いずに放熱できるようにした。