犠牲層をエッチング除去したときに,微細な構造体が基板や他の構造体に付着してしまう現象。

 MEMSでは,犠牲層をエッチング除去した後に,構造体が付着してしまうスティッキングという現象がよく起こる。特にウエット・エッチングでは,水が蒸発するときに表面張力によるメニスカス力が働いて,くっついてしまい,とても深刻な問題だった(図1)。しかしこれは, XeF2やHFのガスを用いたドライ・エッチングなら解決できる。

図1 スティッキングを防ぐ処理
図1 スティッキングを防ぐ処理
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 ウエット・エッチングでスティッキングを避ける1つの方法は,表面張力が小さい液体で乾燥させることである。例えば,水よりも表面張力が1/10くらい小さいフロリナートという液体を使う。しかし,これだけではあまりうまくいかないので,昇華を利用する方法(フリーズ・ドライ)がある。

 例えば,ナフタレンを溶かして固めて放っておく。そうすると,徐々に昇華していくのでスティッキングを起こさずに乾燥できる。一番良いのは超臨界乾燥という液体炭酸ガスの中で乾燥させる方法である。液体炭酸ガスは7.38MPaで31℃を超えると超臨界状態になる。超臨界状態とは,分子がクラスタ状になりバラバラになって浮いているような状態である。表面張力が働かないので,乾燥するときにMEMSの微細構造がスティッキングを起こさない。

 そのほか,乾燥する段階ではくっつかなくても,表面に水酸基があると徐々に水で覆われていき,反対側と水を介してくっついてしまうことがある。ドライ・エッチングで作ったMEMSでも,こうしたスティッキングは起きる。

 これを防ぐためには,表面に水酸基を作らないように撥水処理をすることが重要である。最近は, SAM(セルフアセンブルド・モノレイヤ)という撥水処理機能の付いたドライ・エッチング装置も販売されている。

 なお,スティッキングを防止する一番良い方法は,構造的にくっつかないように,突起を作っておくということである。