Siの結晶面によるエッチング速度の違いを利用することで,V字型の溝や台形のくぼみなどさまざまな形状が作れる。

 Siの結晶はダイヤモンド構造をしており,結晶内部のSi原子はそれぞれ4本のボンドで共有結合している。ただし表面のSi原子は,結晶面によって結合の仕方が異なる。例えば(100)面では,4本のボンドのうち2本が切れて2本でつながっている。面は3本のボンドでつながっていて,1本だけ切れている。このため,(111)面の方が(100)面よりエッチングされにくい(エッチング速度が遅い)。

 この違いを利用するのが,Siの結晶異方性エッチングである。図1は,Siを(100)面からエッチングしたとき(図1の(a)(b)(c))と,(110)面からエッチングしたとき(図1の(d)(e)(f))の形状の違いを示している。エッチングが進むに従って,エッチングされにくい(111)面が現れて,さまざまな形状ができる。

図1 Siの結晶異方性エッチング
図1 Siの結晶異方性エッチング

 図2は,結晶異方性エッチングを利用して作った個別細胞融合セルというMEMSデバイスである。V字型のセルが並んでいて,このセルの中に細胞を入れ,電流を流して細胞膜を壊し融合させる。右の写真にあるように適当な形のマスクを使っても,エッチングで(111)面が現れるので,自動的にきれいなパターンが形成される。

図2 (100)面ウエーハの結晶異方性エッチングで作製した個別細胞融合セルとエッチングの例
図2 (100)面ウエーハの結晶異方性エッチングで作製した個別細胞融合セルとエッチングの例

 (110)面のウエーハを使うと,垂直の深い溝を作ることができる。これは,面が垂直方(111)向にあるからである。ただし,図1(d)でも分かるように,垂直の面同士の角度は70度になる。また,この三角形の底面に斜めの(111)面が現れる。もし,こうした面を取り除きたいときは,上からYAGレーザーを当てるような手法を使う(図1(f))。

 Siの結晶異方性エッチングは,アルカリ性の液でエッチングをする。代表的なものは,KOH(水酸化カリウム),TMAH(テトラメチルアンモニアハイドロオキサイド),EDP(エチレンジアミンピロカテコール),N2H4・H2O(水和ヒドラジン)などである。それぞれメリット,デメリットがあり,目的に応じて使い分ける。