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ミックスト・シグナルとは

mixed signal

2009/01/13 09:00
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改訂版EDA用語辞典とは・著者一覧

 ミックスト・シグナルとは,アナログ信号とデジタル信号の混在を指す。例えば,デジタル回路とアナログ回路の両方を搭載したICは,「ミックスト・シグナルIC」と呼ばれる。このICを効率良く設計するための手法が「ミックスト・シグナル設計」であり,その設計を支援するEDAツールに「ミックスト・シグナル・シミュレータ」がある。

 最近の半導体チップは,演算回路や論理回路,CPUコアなどのデジタル回路だけではなく,メモリーやA-D/D-A変換器,オペアンプといったアナログ回路も集積することが多い。このようなミックスト・シグナルICを設計する際,これまでは,アナログ回路とデジタル回路を別々に設計し,最後にそれらを合わせて,チップ全体の動作を検証するのが一般的だった。

 しかし,アナログ回路とデジタル回路間の接続ミスや,タイミングまたはインタフェース仕様の取り違えなどによって,ICが動作しない場合が少なくなかった。運良く設計段階で不具合を発見できたとしても,発見の時期が設計の最終段階であることは多い。これでは,大きな設計の後戻りが発生してしまう。

抽象度の高い設計を実施

 一般に,ミックスト・シグナル設計では,アナログ部,デジタル部,共に抽象度の高い設計データを扱うことが多い。すなわち,デジタル部は,ゲート・レベルだけでなく,RTL(resister transfer level)や動作レベルで設計する。また,アナログ部でも,トランジスタ・レベルだけでなく,機能レベルや動作レベルでも扱う。

 抽象度の高い設計データは,ハードウェア記述言語(HDL:hardware description language)で表すことが多い。デジタル回路向けのHDLとしては,IEEE標準の「VHDL(Very High Speed Integrated Circuits HDL)」と「Verilog HDL」が共に広く普及している。

 アナログ回路設計で使うHDLは,デジタル回路向けHDLをアナログ向けに拡張したものである。VHDLとVerilog HDLのアナログ版は,それぞれ「VHDL-AMS」と「Verilog-A」と呼ばれる。

 どちらの言語も,「Kirchhoffsches(キルヒホッフ)の法則」に基づいたアナログ回路動作の記述が可能で,抵抗や容量,インダクタなどのアナログ素子を含めた記述が可能である。さらに,三角関数や算術関数,ラプラス変換やz変換などの演算子をサポートしており,抽象度の高いアナログ機能を記述できるようになっている。

 VHDL-AMSは,ミックスト・シグナルの記述も可能で,1999年3月に「IEEE 1076.1」として標準化された。Verilog-Aは純粋にアナログのみの記述が可能で,EDA関連の標準化団体である米Accelleraアクセレラの前身のOVI(Open Verilog International)が策定した。

 Accelleraは「Verilog-AMS」の策定もしている。Verilog-AMSは,Verilog HDLとVerilog-A,およびミックスト・シグナル記述向けの拡張仕様からなる。Accelleraは,Verilog-AMSをIEEE標準にするための活動を進めている。さらにAccelleraは,「SystemVerilog」のミックスト・シグナル化も予定している。Verilog-AMSの仕様をSystemVerilogに統合していく予定である。

メカトロニクスへの応用も

 ミックスト・シグナル記述では,アナログとデジタルの境界で,アナログ単位系やタイム・ドメイン(連続または離散)の異なるネットを接続した場合の変換アルゴリズムが定義できる。これで,アナログ-デジタル(A-D)やデジタル‐アナログ(D-A)のインタフェースが作成可能になる。

 また,ミックスト・シグナルのHDLでは,アナログ単位系をユーザーが独自に定義できる。これでエレクトロニクスだけではなく,メカトロニクスなど,複合システムの系をモデリングすることができる。例えば,動力系や回転系を含んだ自動車設計などにも,ミックスト・シグナルのHDLが広く応用されている。

ミックスト・シグナルICを検証

 ミックスト・シグナル・シミュレータは,アナログ回路を扱う回路シミュレータと論理回路を扱う論理シミュレータが一体になったものである。一般にミックスト・シグナル・シミュレータは,多くの言語をサポートする。VHDLやVerilog HDL,VHDL-AMS,Verilog-AMS,Verilog-A,SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)コードが混在した回路をシミュレーションできる。ミックスト・シグナルICの複雑な動作をこれらの言語を組みわせてモデル化することによって,回路シミュレータ単体では処理時間が長すぎて検証不可能でも,ミックスト・シグナル・シミュレータならば効率良く検証できるようになる。

 ミックスト・シグナル・シミュレータを用いた検証は次のような手順で進むのが一般的である(図1)。


【図1 ミックスト・シグナル回路の検証フロー】出典はセイコーエプソン。 (画像のクリックで拡大)

  • (1)抽象度の高いシミュレーションを実行し,トップ・レベルで機能検証を十分に行う。
  • (2)機能ブロックごとに機能検証する。すなわち,機能ブロックを回路機能ごとに区分けして,各部の仕様を決める。そして,ブロック・レベル機能検証を行う。
  • (3)仕様が決まったアナログ部をトランジスタ・レベルで設計する。
  • (4)アナログ部をトランジスタ・レベルに置き換え,ブロック・レベルで特性を検証する。
  • (5)アナログ・ブロックをトランジスタ・レベルに置き換え,かつデジタル・ブロックをRTLからゲート・レベルに置き換え,トップ・レベルの特性検証を行う。

アナログもトップ・ダウン設計

 最近,アナログ回路設計の効率化を図ろうと,回路定数を最適化するツールが市販されるようになった。このツールに所望のアナログ回路のスペックを設定すると,そのアナログ回路を構成するデバイスのサイズや,受動素子のパラメータ,バイアスの最適値を自動的に割り出す。

 このツールは,次のように処理を進めている。まず,ユーザーが対象回路のトポロジと,各解析(DC,AC,過渡など)の目標値,さらに最適化の対象のパラメータを入力する。ツールが回路シミュレータを起動し,解析を実行する。その結果を確認して,要求スペックに合致しなければ,パラメータを調整し直す。こうした作業を,スペックに合致するまで,ツール内部で繰り返す。

 このツールを図1のミックスト・シグナル設計フローに組み込むことで,従来,ボトム・アップ設計(トランジスタ・レベルからの設計の積み上げ)が当たり前だったアナログ回路設計が,トップ・ダウン設計(高抽象レベルからトランジスタ・レベルへの落とし込み)へと変化して,アナログ回路設計の効率化が期待できる。

 例えば,図1の(2)において,ブロックを構成するアナログ部のスペックが決まる。(2)から(3)の過程で,設計者は,そのスペックを満足するような回路トポロジを選ぶ。その回路トポロジを回路定数最適化ツールにかけることで,自動的に各能動素子のデバイス・サイズと,受動素子のパラメータが決定される。高い抽象レベルからトランジスタ・レベルへの落とし込みが完了する。

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