三菱重工業による民間ジェット旅客機のことで,MRJとはMitsubishi regional jetの略である。同社は2008年4月,航空機事業専門の子会社「三菱航空機」を設立し,2013年のMRJ就航を目指して開発を進めている。MRJは「日本にとって40年ぶりの悲願である国産旅客機」とも言われている。

 「リージョナル・ジェット(regional jet)」とは,航続距離が数千km程度,客席数が100席以下の小型の航空機のことである。主に大陸内/国内を結ぶことを目的としており,中国やロシア,インドなど新興国の経済成長に伴い,こうした地域内での交通手段などに向け,今後20年間で約5000機の需要が発生するとみられている。これを見越して,リージョナル・ジェットの2大メーカーであるカナダBombardier社,およびブラジルEmbraer社に加え,現在,中国の中航商用飛機有限公司(ACAC)が「ARJ」を,ロシアのSukhoi Co.が「Superjet 100」を開発するなど,新規参入が激化している。

 このMRJの開発には一種の国家プロジェクトとしての側面がある。「技術の先導役」としての役割を官民から期待されているからだ。例えばパイロットの操縦指令を電気信号に置き換え方向舵や昇降舵を動作させるFly-by-Wire技術,航空機を軽量化し燃費を向上させるために開発された炭素繊維複合材(CFRP),航空機の空力設計を風洞実験ではなくコンピュータ上のシミュレーションによって行うCFD(computational fluid dynamics)などは,航空機開発を通じて培われてきた。さらにこうしたハードウエア技術に加えて,ソフトウエア開発技術においても波及効果が期待されている。

これまで日本の航空機業界は欧米メーカーの下請けに甘んじていたが,国内でも機体事業が生まれることで,日本の他の業界に航空機で培われる先端的な技術が波及しやすくなる。(写真:三菱航空機の提供)
これまで日本の航空機業界は欧米メーカーの下請けに甘んじていたが,国内でも機体事業が生まれることで,日本の他の業界に航空機で培われる先端的な技術が波及しやすくなる。(写真:三菱航空機の提供) (画像のクリックで拡大)