存在しない制御フラグを「あり」と見なして運用

 地上デジタル放送(地デジ)などの無料テレビ放送で運用されている著作権保護ルール「コピーワンス」を緩和する方策として,総務省の情報通信審議会が2007年8月に導入を提案した手法である。

 録画した番組を,ほかの媒体に移す「ムーブ」だけしか許さないコピーワンスに対し,ダビング10は一つの録画に対して9回までの複製と,ムーブ1回を可能にする。9+1=10で,ダビング10だ。

放送局は設備の改修をせず放送波もそのまま

 ダビング10導入に合わせて,デジタル放送推進協議会(Dpa)は2008年2月7日,放送運用規定の改訂案を公開した。改訂のポイントは二つある。まず,ダビング10に非対応の録画機で,ダビング10番組がコピーワンスで扱われるようにすること。もう一つは,導入をできるだけ急ぐために,放送局の設備改修を最小限にすることである。

 一つ目の条件から,放送波に多重して送るコピー制御信号(CCI)のうち,録画の扱いを決める2ビットの制御フラグ「digital_recording_control_data」を,ダビング10でもコピーワンスと同じ「1世代のみコピー可」とした。これで非対応機は,ダビング10番組をコピーワンスと解釈して動作する。加えて,ダビング10適用を示す1ビットのフラグ「copy_restriction_mode」をCCIに新設した。ダビング10対応機はこのビットを読み取り,「1」であればダビング10番組,「0」であればコピーワンス番組と判断する。

 だがこのままでは,ダビング10番組を放送するすべての放送局が「copy_restriction_mode」を送れるように放送設備を改修する必要がある。そこで,このフラグのデフォルトを1と規定した。こうすればダビング10番組は,放送局がcopy_restriction_modeを含まないこれまでと同じ放送波を送るだけで,録画機側がダビング10と解釈する。ダビング10導入後も一部コピーワンス番組を続けるWOWOWなどの有料放送局だけが設備を改修すれば済む。

 このように,ダビング10への運用切り替えはほぼ,録画機側の対応だけで行われる。メーカー各社は,放送波を使ったファームウエアのアップデートなどでダビング10に対応させる方式を採った。これは,導入予定日より前に機器のダビング10対応機能が作動して,コピーワンス番組をダビング10番組と誤認識する事態を避けるためだ。日立製作所や東芝は2008年6月に発売する新製品に関しても,アップデートによる対応を行う。


放送波に多重するコピー制御信号の「コンテント利用記述子」に,「copy_restriction_mode」と呼ぶダビング10用の1ビットの制御フラグが新設された。ただし,運用切り替えのXデー以降も地デジなどの無料放送はこの信号を付加せず放送し,録画機側で「1(OK)」と見なすことでダビング10として運用する。放送局側の改修を最小限にすることを狙った。

日経エレクトロニクス2008年6月2日号より