用語解説

 ベンゼン環を2次元平面に敷き詰めた6員環シートのこと。グラフェンシートとも言う。このシートを筒状に丸めたものがカーボンナノチューブ,複数枚積層したものがグラファイトである。

 ベンゼン環は炭素6個と水素6個からなる六角形であり,sp2混成軌道をとっている。このため,グラフェンシートの上下にはπ電子が存在し非局在化している。グラファイトの場合,積層した隣同士のシートのπ電子と重なりあうことで電子がさらに非局在化し安定化する。カーボンナノチューブの場合には,グラフェンシートが丸まった構造をとり,単層となるとその曲率がさらに小さくなって,許される電子状態が幾つかに限定されることによって,量子効果を持つようになる。

 このようにグラフェンは,グラファイトやカーボンナノチューブの中間素材的な存在だと見られていたが,近年グラフェンそのものに注目が集まってきた。2006年から研究発表が急増しており,ナノサイズのトランジスタや回路を形成する「ポストSi」の有望新素材として特に米国で研究が活発化してきた。

 グラフェンの物性的な特徴としては,キャリア移動度が20万cm2/Vsと金属やカーボン・ナノチューブを超える値を示すことが挙げられる。このほか,(1)ナノデバイス特有の1/f雑音を大幅に抑制できる,(2)負の屈折率を示す,(3)グラフェン上の電子はあたかも質量がゼロであるかのように振舞う,といった特性があることが報告されている。また,金属と半導体の中間的な特異な性質をいくつも備えている,という指摘もあり,その多様な特性に俄然興味が深まってきた,という状況だ。それだけ,分かっていないことも多く,研究者の腕の見せ所といったところだ。

供給・開発状況

2008/04/01

米IBMが2層グラフェンで
1/f雑音を大幅に抑制


【図1】グラフェンを2層にすることによって雑音が低減される様子を示した模式図 (クリックで拡大表示)

 米IBM Corp.は,グラフェンを2枚重ね合わせてトランジスタを試作したところ,ナノデバイス特有の1/f雑音を大幅に抑制できることを見いだした(図1)。一般にナノデバイスでは寸法が小さくなるに連れて1/f雑音と呼ばれる制御不能な雑音が増え,S/Nが悪化する問題がある。この現象は「フーゲの法則」として知られており,グラフェンやカーボン・ナノチューブ,Si材料でも発生する。 雑音が抑制されるのは,2層のグラフェン間で強い電子結合が生じたためではないかと見られているが,今後さらに詳細を解明する予定という。

富士通研,カーボン・ナノチューブと
グラフェンの複合構造体を形成


【図2】ナノカーボン複合構造体の模式図 (クリックで拡大表示)

 富士通研究所は,基板に対して垂直方向にそろって成長した多層カーボン・ナノチューブ上に,数層から数十層のグラフェンが自己組織的に形成された新しい複合構造体を自己組織的に形成させることに成功した(図2)。同研究所は今後,同複合構造体の形成機構を解明し,詳細な物性を明らかにすることで,その特長を活かした電子部品に応用していきたいという。