酸化インジウム(In2O3)に数%の酸化スズ(SnO2)を添加した化合物のこと。英文名は,Indium Tin Oxide。可視光の透過率が約90%に上るため,液晶パネルや有機ELなどのFPD(フラット・パネル・ディスプレイ)向けの電極として多用されている。
液晶パネルでは液晶分子の配向を制御するための電圧を印加する電極として,有機ELパネルでは正孔輸送層,発光層,電子輸送層を挟む陽極としてITOが使われている。また,太陽電池,抵抗膜方式のタッチパネル,青色発光ダイオードの電極としても採用されている。
ITOの最も一般的な製法はスパッタリング法だが,近年ITOをインク化して,塗布,加熱,融着させる手法の開発が進んでいる。印刷により成膜できるので低コストで済み,廃材も削減できるというメリットが注目されている。ただし,ITOインクを使ってITO膜を形成すると,スパッタ装置で形成する一般的なITO膜に比べて抵抗率が1~2ケタ程度大きくなるために,低抵抗化が課題である。
Inの資源枯渇が深刻化
主要用途であるFPDの出荷量が増大するに伴い,ITOの需要も拡大しており,ITOの主成分であるIn(インジウム)が希少金属であることから,資源枯渇問題が深刻化してきた。In資源の埋蔵量からみて,このまま使い続けると2011年で枯渇するという予測もあり,危機感が高まっている。Inの価格も高騰が続いており,ここ3年ほどで5倍程度に上がったといわれている。
このため,スパッタリング法ではターゲット材に廃材が多く出るために,ITOの廃材を回収して,Inとして精錬,リサイクルする手法が整備されてきた。現状のITOのターゲット材では,60%を超すリサイクル材が使われているが,さらにこの比率を高める試みが続いている。
このほか,最終製品のパネルよりInを回収する手法や,抜本的にはZnO(酸化亜鉛)などInを使わない代替材料の開発も活発化している。
2006/09/22
アルバック,抵抗率が低い塗布型ITOを開発
アルバックマテリアルは,ITOや銅(Cu),銀(Ag),金(Au)といった金属微粒子を溶媒に分散させた「ナノメタルインク」を開発,「第28回 真空展」(2006年9月13~15日に東京ビッグサイトで 開催)に出展した(図)。
ITOインクについては,230℃で焼成した後の抵抗率を従来よりも1ケタ下げることができたという。ITOインクの焼成温度についてはさらに下げることも可能とする。ただし,現状はまだ「ITOインクの材質が不安定になってしまう」という課題がある。その結果,焼成前にもかかわらずITO微粒子が凝集し,溶媒中に沈殿するという問題が起こってしまう。現在,このような問題を回避しながら抵抗率や焼成温度を下げる開発を行っている。
シャープ,が液晶パネルからの
In回収技術を開発
シャープは液晶パネルの透明電極(ITO)に含まれるInを回収,リサイクルするための技術を開発した。廃棄されたパネルを粉砕し,塩酸系溶液で溶解させることでInを回収する。溶液に溶かすだけでInを回収できるため,従来のように高温・高圧環境下でパネルを加熱しInを取り出すといった作業が不要になった。
今回開発した回収技術を使った場合のInの回収率は99%という。15インチの液晶パネルから約15mgのInを回収できる計算である。回収するInの純度については明かしていない。同社は実用化を見据えて今後,大型実験機を使った検証実験を行う予定である。2007年度中には,まずは少量から回収システムを稼働させたいとする。