用語解説

 ZnO(酸化亜鉛:Zinc Oxide)は,工業的には金属亜鉛を加熱,気化して空気で燃焼させる方法か,硫酸亜鉛または硝酸亜鉛を燃焼させて製造する。粒径0.1μm以下と細かい白色の粉末状材料であり,毒性がないことなどから,白色顔料として多用されている。このほか,ゴムの加硫促進助剤,塗料,印刷インキ,医薬品,歯科材料など多様な用途に普及している。

 これに対し近年注目されているのが,第一に透明で導電性を持つという特徴を活かした使い方である。例えば,フラットパネル・ディスプレイ(FPD)や白色LED向けの透明電極として期待されている。透明電極として現在普及しているITO(インジウム・スズ酸化物)は原料のInの価格が高騰しているが,Znは埋蔵量が多くて安価であり原料問題を回避できるためである。

 もう一つの使い方が,半導体としての特性そのものを利用しようとするものだ。FPD駆動用の透明TFTや白色LED向けの近紫外LEDである。透明TFTでは,Si-TFTと違って可視光を吸収しないので,輝度低下の要因となる遮光膜を不要にできることから,光取り出し効率を高めてパネル輝度を向上できると見られている。また,ZnO系の近紫外LEDは,原理的にGaN系青色LEDを発光効率でしのぐと考えられている。

導電性付与やp型半導体作成技術が確立へ

 ZnO系透明電極を開発するためには,ITO並の導電性をもたせる必要がある。そこで,ZnOにAlやGaを0.1質量%以上添加することにより,導電性を付与する検討が進んでいる。これらの元素を添加することで導電性が上がるのは,Znイオンの部分にAlイオンまたはGaイオンが置換固溶することで電子を1つ放出されて抵抗が下がるからだと見られている。

 一方,ZnOはバンドギャップが3.37eVと大きな酸化物半導体だが,半導体デバイスとして利用するとなると,n型,p型半導体の両方が必要になる。しかし,ZnO自体はn型半導体になりやすく,p型半導体をつくるのは極めて難しいという問題がある。

 しかし最近,p型結晶の成長技術が確立されてきており,発光に必要なpn接合の形成が可能になった。また,透明TFT向けでは,多結晶Si並みのキャリヤ移動度が得られるようになり,俄然現実味が出てきた状況である。

供給・開発状況

2006/07/07

ZnO透明電極をLEDで実用化

 ZnOを透明電極として使った白色LEDを実用化したのが,ロームと産業技術総合研究所である。白色LEDは次世代の照明として期待されているが,電極にはこれまで半透明なNi-Au系電極を使うことから発光効率が低いという問題があった。ZnO透明電極の実用化により,白色LEDの発光効率を高め,Ni-Au系電極に比べて発光強度を2倍にできたという。

 実用に耐える透明導電を作製できたポイントは,分子線エピタキシー法に工夫を加えたことだという。ロームらは,並行して発光素子形成に必要なp型ZnO半導体の開発を進めており,そのために残留欠陥濃度を低減する技術や,不純物の導入による電気伝導度を制御する分子線エピタキシー技術を磨いてきた。透明電極の作成にあたっても,こうしたp型ZnO半導体作成で培った技術を活用したとしている(日経エレクトロニクス2004年9月13日号Guest Paper)。

 ZnO透明電極はLED以外にも液晶ディスプレイやPDPなどのFPDに使うITO透明電極の代替材としても注目されている。FPD用のITOを代替するためには,1m×1m以上の大面積で成膜できる装置が必要である。分子線エピタキシー法では30cm×30cmが限界であり,大面積の成膜は難しいという。このため例えば,高知工科大学,住友重機械工業,産業技術総合研究所の共同研究チームが反応性プラズマ蒸着(RPD)法といった大面積を可能にする新しい成膜方法の開発を進めている。

発光デバイスや透明TFTの研究も活発化

 透明電極に続いて,ZnOの半導体としての特徴を活かした発光デバイスとしての可能性に注目が集まってきた。例えば東北大学の川崎雅司氏らの研究グループは,ZnOの励起子の束縛エネルギーがGaN(28meV)などと比べて60meVと大きいことに着目して,GaNを超える発光デバイスを目指して研究を進めているという。その第一歩は,p型ZnOを作成することだが,川崎氏らは「コンビナトリアルケミストリーの手法を応用することによって実験のスピードが格段にはやくなり、より系統的な研究が行えるようになった」としている(関連記事)。

 さらに,透明なTFTの研究も活発化している。例えば,東北大学の大野研一氏らの研究グループは,ZnOを使ったTFTを試作している。その結果,ゲート電界によりZnOの電子が蓄積状態(ON状態),空乏状態(OFF状態)にコントロールされていることが分かったとする。ZnOからなるTFTの電界効果移動度は2.3cm2/Vsであり,アモルファスシリコン(a-Si) TFT よりも高い結果が得られたという(関連記事)。

ニュース・関連リンク

日経マイクロデバイス用語 「ZnO」

【SID】酸化物系か有機系か?--次世代TFT向け半導体材料候補の発表続出

(Tech-On!,2006年6月7日)

[ナノ学会 第3回大会報告9]名工大,UVレーザー用として有望なSi基板上に垂直配向したZnOナノワイヤーのシンプルな作成法を開発中

(Tech-On!,2005年5月19日)

ZnO透明電極をLEDで実用化 発光強度が既存電極の2倍に

(日経エレクトロニクス2004年9月13日号Guest Paper)

京大の藤田教授ら,ZnO でInGaNを代替するレーザー素子などの開発を目指す

(Tech-On!,2003年11月11日)