ガリウムナイトライド (gallium nitride) とも呼ばれる窒化物半導体である。バンドギャップが3.45eV(光の波長で約365nmに相当)とSiより3倍広いという特性を活かして,光デバイス向けに多用されている。インジウム(In)やアルミニウム(Al)を混ぜてバンドギャップを調整することで,青色発光ダイオード(LED)や青紫色半導体レーザといった発光デバイスが実用化している。
緑色LEDの効率向上が課題
Inを混ぜてバンドギャップを調整したInGaN系のLEDの効率は,年々向上している。例えば,青色LEDの外部量子効率は約50%に達し,それを用いた白色LEDの発光効率も100lm/Wと蛍光灯を超えるレベルになってきた。こうしたLEDで使われるInGaN半導体はこれまで,サファイア基板やSiC基板の(0001)極性面上に作製されているが,この構造で高い量子効率が得られるのは,360nm域の紫外から400nm域の紫,および460nm域の青色までである。500nmより長波長域では効率が低下してしまう問題がある。
特に深刻なのは緑色(530nm域)で,青色の半分程度の効率になってしまう。現在,LEDの有望な用途として,青(InGaN系),緑(InGaN系),赤(AlGaInP系)の三原色LEDをバックライトとした液晶ディスプレイが浮上しているが,実用化を進める上で緑色LEDの効率を向上することは重要な課題となっている。
緑色LEDの効率が下がるのは,活性層として用いているInGaN中のIn組成比率を高くすることが原因であることが分かっている。つまり,極性面上で大きなピエゾ電界のために活性層に注入した電子と正孔が引き離されるために発光遷移確率が低くなることが一つの原因である。これを解決するために,ピエゾ電界が発生しない無極性面に素子構造を作製することが検討されているが,この結晶面方位上への成長は困難である。そこで,極性面と無極性面の中間に位置する半極性面に結晶を成長させてLED素子を作成する,などの検討が進んでいる。
トランジスタに使う
一方,光デバイスだけでなく,GaNをトランジスタに適用しようという試みも活発化してきた。GaNで製作したトランジスタは,(1)耐圧が高い,(2)高温で動作する,(3)電流密度を大きくできる,(4)スイッチングが高速である,(5)オン抵抗が小さい---という特徴を持っている。こうした特徴を活かして,パワー・アンプ回路,電源回路,モータ制御回路といった分野で,SiC半導体と並ぶ次世代パワー半導体デバイスとして期待されている。
2006/07/07
京都大・日亜化学,外部量子効率を100倍高めた緑色LEDを開発
京都大学助教授の川上養一氏と日亜化学工業らの研究グループは,半極性面のGaNバルク単結晶基板上へのLEDの作製に世界で初めて成功した,と発表した。この手法を使って,従来の同タイプの緑色LEDに比べて,外部量子効率を約100倍まで高めた同タイプの緑色LEDを開発した(図1,Tech-On!の関連記事1)。三原色LED実現のためのネックと言われていた緑色LEDの高効率化の有力な手段として注目される。
基板にはGaNのバルク基板,活性層にはInGaNを利用する。駆動電流が20mA時の出力は1.9mW,外部量子効率は4.1%,発光波長は約530nm,駆動電流が200mA時の出力は13.4mW,同2.8%,同約520nmである。高効率化を達成したのは,半極性の結晶面がマイクロファセット(微小結晶辺)として自然形成され,その上にInGaN/GaN量子井戸を作製することでピエゾ電界が低減できて発光効率が向上したためだとしている。
松下電器,GaN系トランジスタを開発
松下電器産業は,従来よりも素子面積を約1/8に縮小し,オン抵抗を約1/3に低減したGaN系の縦型トランジスタを開発した(図2,Tech-On!の関連記事2)。低損失大電力スイッチング素子として,汎用インバータや電源等で用いられるパワートランジスタの低損失化・小型化が実現でき,機器の省電力化・低コスト化に貢献できるとしている。
ソースとチャネル,ドレインを縦方向に積み重ねた縦型構造を採用したことにより,チャネル幅を0.3μm,トランジスタ全体の幅を1.2μmに小型化できた。ソースとチャネル,ドレインが横方向に並ぶ横型トランジスタ構造に比べ,素子面積は約1/8になったという。オン抵抗は,ソース電極(WSi材料)とチャネル層間にInAlGaNによるコンタクト層を設けたことで,トランジスタのオン抵抗を1/3に低減できた。