用語解説

 金属中の電子が光と相互作用を起こす現象のこと。SPR(surface plasmon resonance)とも言う。通常は,金属中の電子は光と相互作用しないが,nmレベルの微粒子や針状の突起物の先端部が周期的に並ぶような特殊な構造をとる場合,その微細な領域中で電子と光が共鳴して,これまでの常識を覆すような非常に高い光出力をもたらすなどの効果を発現する。

 表面プラズモン共鳴自体は,金属微粒子が着色する現象として知られていた。ガラスの表面に金属微粒子を塗布した着色ガラスは鮮やかな色を示し,ステンドガラスとして普及している。自動車の着色塗装にも応用されている。これに対して近年注目されているのが,光デバイスとして使おうという試みである。そのために,ナノ領域における光の挙動を研究する「ナノフォトニクス」という研究分野も確立されつつある。

超高出力レーザや超微細バイオセンサが可能に

 光デバイスとして注目されている応用分野の一つが,高い光出力を持つ発光素子である。表面プラズモン共鳴により,数百倍から場合によっては数千倍もの光強度の増加現象が見られることから,これにより高出力な面発光レーザなどの発光デバイスを開発しようという検討が始まっている。nmレベルの微細領域に光を閉じ込めることが可能なことから,ナノ光導波路としても有望視されている。

 また,表面プラズモン共鳴が起こっている表面の領域は,わずかな分子が結合しただけで敏感に共鳴状態が変化することから,DNAなどの微小物質を検出するバイオセンサとして使う検討も進んでいる。

供給・開発状況

2006/06/09

松下電器,しきい値電流を下げながら
大出力の面発光レーザを開発

「表面プラズモンミラー」を使った面発光レーザの断面写真
【図1】「表面プラズモンミラー」を使った面発光レーザの断面写真(クリックで拡大表示)

 松下電器産業は,しきい値電流(レーザ発振を始める駆動電流値)を0.5mAと下げながら,2mWという大出力を可能にした面発光レーザを開発した(Tech-On!の関連記事1)。レーザの構成は,光出力を増幅する共振器タイプで,出射側の反射ミラーとして,従来の反射膜とAg製の「表面プラズモンミラー」を組み合わせている。このミラーは,直径が200nmの穴を550nmの周期で作りこんだ構造をしており,ここで表面プラズモン共鳴が起き,光出力が著しく増大した(図1)。

 これまでは,面発光レーザのしきい値電流を下げるにはミラーの反射率を高める必要があるが,反射率を高めると光を取り出しにくくなり,光出力は弱まってしまうというジレンマがあった。表面プラズモン共鳴を利用することにより,しきい値電流を下げると共に,光出力を上げることに成功した。

米Applied Plasmon,LEDより
高効率な「発光真空管」を開発

ナノアンテナの電子顕微鏡写真。高さ100nm前後の突起がおよそ0.2μm間隔で並んでいる
【図2】ナノアンテナの電子顕微鏡写真。高さ100nm前後の突起がおよそ0.2μm間隔で並んでいる(クリックで拡大表示)

 米国のベンチャー企業,Applied Plasmon,Inc.は,外形寸法10μm×10μm×0.5μmと微小な「発光真空管」を開発した(Tech-On!の関連記事2)。発光効率はLEDの数倍と非常に高いという。

 同真空管の構造は,内部を真空状態にした微細なパッケージの中に,Siチップの表面に突起をリソグラフィで一定間隔で何列も並べた上で電界めっきでAgをコートした「ナノアンテナ」と呼ぶ素子を収めたもの(図2)。ここに20keV程度の電子線を放射して発光させる。電子線を照射すると,AgとSiの界面で表面プラズモン共鳴が起きて,発光が増幅される。用途としては,ICに集積できる発光素子としてチップ間の光配線やサーバー機間通信への応用を想定している。

産総研,Geナノドット使った
次世代の質量分析法を開発

Geナノドットの原子間力顕微鏡像。直径数十nmのドットが形成
【図3】Geナノドットの原子間力顕微鏡像。直径数十nmのドットが形成(クリックで拡大表示)

 産業技術総合研究所は,Ge(ゲルマニウム)ナノドットを試料基板に採用することにより,高分子量化合物を補助剤なしで試料を分解させずにイオン化して質量分析できる技術「ナノドットイオン化法」を開発した(Tech-On!の関連記事3)。たんぱく質などのバイオ関連物質や規制対象になっている臭素系有害物質を迅速かつ簡便に分析できる可能性が出てきた。

 Geナノドットは,単結晶Si(シリコン)基板上に分子線エピタキシー法によって作る。Si結晶とGe結晶の格子定数の違いから数十nmのドーム状のGe結晶が成長する(図3)。このGeドット表面に表面プラズモン共鳴が起きてイオン化を促進している,と産総研では見ている。

ニュース・関連リンク

松下電器産業,表面プラズモン共鳴を利用してしきい値電流を1/2にしたVCSELを開発

(Tech-On!,2006年5月25日)

LEDより高効率な「発光真空管」,米ベンチャーが表面プラズモンで実現

(Tech-On!,2006年5月18日)

産総研,Geナノドット使った次世代の質量分析法を開発

(Tech-On!,2006年2月22日)