従来の露光装置を使わずに,原版を基板に押し当てることで微細加工を実現する技術を「ナノインプリント」と呼ぶ。この技術を,LSIの量産に使おうとする動きが出てきた。これまでは光学部品の加工などに使われており,LSIに応用することは難しいと考えられていた。ここへ来て,米Motorola, Inc.や大手メモリー・メーカーは,原版と基板を直接接触させずにナノインプリントを実現する米Molecular Imprints, Inc.の技術を,量産向けに本格検討し始めた(図1)。

数nm級の極微細加工も可能

 ナノインプリントをLSI製造に使う際の利点は,高解像度,優れた寸法制御性,低コストの3点にまとめられる。解像度は,現時点で数十nmを実現できており,原版さえ準備できれば,数nm級を達成できる。寸法制御は,既存の露光技術で問題になっているバラつきが少ない。コストは,装置価格を約1000万米ドルと既存の露光装置以下に抑えられる見通しである。

 このようにナノインプリントは優れた特徴を持つが,これまではLSI 製造には使えないとの見方が多かった。これは,ゴミなどの付着による欠陥,位置合わせ,スループットの3点で問題があると考えられていたためである。ここへ来て,一部のLSIメーカーが本格検討を始めたのは,Molecular Imprintsの技術を評価した結果,三つの問題が必ずしも実用化を阻害する根本要因にはならないことが見えてきたためである。

 欠陥は,既存の検査装置では見つけられないほど少ないことが分かってきた。今後,高解像度の検査装置を開発して詳細に調べる方向である。位置合わせは,通常の露光装置と同等の技術で対応できる見通しである。実際,位置合わせバラつきを3σで10nmと既存の露光装置並みに抑えた機種が2005年2月末に登場した。スループットは,位置合わせを高速化することによって改善できる方向が見えてきた。


図1●原版と基板を直接接触させずにナノインプリントを実現 ウエーハ表面を平坦化してからレジストを塗布し,透明な原版をレジストに押し当て,光を照射する。この際,原版と基板は接触しないのでゴミの付着や基板の損傷を防げる。米Molecular Imprints, Inc.のデータ。