pre-crash safety system

 先行車や障害物,歩行者などとの衝突の被害を軽減するシステム。トヨタ自動車,ホンダ,日産自動車の各社が実用化している。事故が起きるまでの予防安全「アクティブ・セーフティ」,事故が起こってからの衝突安全「パッシブ・セーフティ」の2つに大別できる。

アクティブ・セーフティで事故を軽減

 各社が最近,力を入れているのは,アクティブ・セーフティである。事故が起こってからのパッシブ・セーフティでは安全確保にも限界がある。事故そのものを防ぐ手段としてアクティブ・セーフティの効果が大きいとの期待が高まっている。

 アクティブ・セーフティを実現するのは,レーダやカメラなどのセンサだ。センサ類とコンピュータで,障害物までの距離や位置を計算する。衝突の可能性が高ければ,運転者に危険が迫っていることを音や表示で警告すると同時に,ブレーキの油圧を高めることで,運転者がブレーキ・ペダルを少し踏んだだけでブレーキが利くようにする。

 ブレーキの油圧を高め,警告したにもかかわらず衝突が避けられない場合は,強制的に自動ブレーキをかけて衝突の被害を軽減する(図1)。またシートベルトを強く引き締めることで衝突の被害を抑える。

 例えば,トヨタ自動車の「クラウン マジェスタ」のアクティブ・セーフティには,赤外線カメラで夜間の視認性を高める「ナイトビュー」(図2),車速とステアリングの舵角によってフロント・ランプの方向を変化させる「インテリジェントAFS」がある。さらに,衝突の可能性があるときにブレーキの油圧を高める「プリクラッシュ・ブレーキ・アシスト」,衝突が避けられない場合に強制的にブレーキをかける「プリクラッシュ・ブレーキ」,シートベルトを巻き取る「プリクラッシュ・シートベルト」などを用意している。

 ホンダや日産自動車も同様の機能を備えるが,多少異なる部分もある。

自動ブレーキまでの流れ
図1 自動ブレーキまでの流れ(ホンダの場合)
衝突の約3秒前に警報を出し,衝突の約1.8秒前に軽いブレーキをかける。衝突を避けられなくなる約0.6秒前で自動ブレーキをかける。

赤外線カメラで歩行者検知

 ホンダは「レジェンド」に,夜間の視認性を高めるために赤外線カメラ「インテリジェント・ナイトビジョンシステム」を搭載した。トヨタ自動車のシステムは運転者に夜間の視界を提供するだけだが,ホンダのシステムでは撮影した映像を画像認識することで,歩行者を検出できるのが特徴。自動車業界では,夜間の歩行者事故を防ぐことが課題になっており,効果が期待されている。

 トヨタ自動車はプリクラッシュ・セーフティ・システムのセンサとして,レーダとカメラの両方を使っている。レーダは障害物までの距離,カメラは障害物の形状や位置を把握するのに優れている。これら2つのセンサを組み合わせることで障害物の認識精度を高める。日産自動車やホンダのシステムは,レーダのみで障害物を検知している。

 パッシブ・セーフティには,エアバッグや歩行者保護ボディ構造がある。歩行者と衝突したとき,歩行者の上半身や頭部がフロント・フードにたたきつけられることがある。そこで歩行者を守るために,フードをへこみやすくして,より衝撃を吸収できる構造にしている。2005年9月からは,これを法制化した「歩行者頭部保護基準」の適用が始まった。

トヨタ自動車の「クラウン マジェスタ」に搭載されたナイトビュー
図2 トヨタ自動車の「クラウン マジェスタ」に搭載されたナイトビュー