EV : electric vehicle

 電気モータとバッテリで走る自動車。1990年代の初頭,米国カリフォルニア州が,2003年から州内で販売する自動車の10%をZEV(zero emission vehicle)にすることを義務付ける「ZEV規制」を打ち出したことから,世界の自動車会社で電気自動車の開発が一斉に盛り上がった。しかし,早期の普及が技術的に困難であることが分かり,この規制は徐々に緩和され,低公害のガソリン車などもZEVとして認められることになった。これにより電気自動車の開発熱は急速に冷めてしまった。当時,電気自動車の開発が挫折した最大の理由は電池の性能が足りなかったことだ。しかし,ここにきてLiイオン電池の改良などが進み,電気自動車開発が復活の兆しを見せている。

エネルギー効率が高い電気自動車

 電気自動車はガソリン車に比べてエネルギー消費量を大幅に減らすことができる。ガソリン車の原油から計算した総合エネルギー効率は14%程度といわれている。一方,電気自動車を最新式のコンバインド・サイクル火力発電から取り出した電力で走らせた場合,総合効率は30%程度とガソリン車の2倍に達する。しかも電気自動車は制動時に運動エネルギーを回生でき,アイドリングも必要ない。それらを勘定に入れれば総合効率は40%程度と見込め,ガソリン車の3倍近くになる。

 燃料電池車と比較しても電気自動車は有利だ。燃料電池車に搭載されている固体高分子型燃料電池(PEFC)の効率は50%程度とされる。これはコンバインド・サイクル火力発電の効率50%に匹敵するが,燃料電池車の燃料である水素を天然ガスから作るのに38%もの大きな損失がある。このためトヨタ自動車は,燃料電池車の総合効率は現在のところ29%にとどまると試算している。

 電気自動車は燃料電池車に比べてインフラ整備が容易という利点もある。燃料電池車は,将来,水素の供給インフラをどう整備するかが大きな課題となっている。電気自動車は,既に電力の基本的な供給インフラが存在しており,あらためて整備する必要がない。

 加えて,電気自動車は燃料コストを大幅に低くできる。例えば,慶応義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏の研究室で製作した電気自動車「Eliica」(図1)は,電池容量50kWhで約300km走行できるという。家庭用電源の深夜電力料金は7円/kWh程度なので,50kWhなら350円しか掛からない。一方,燃費が10km/Lのガソリン車が300km走行する場合の燃料コストは約3600円になり,電気自動車の燃料コストは1/10以下で済むことになる。

 ほかにも,電気自動車にはパッケージングの自由度が高いという魅力がある。インホイール・モータを利用すれば,エンジン・ルームが不要になりスペース効率を上げられる。また,動力伝達損失が低く抑えられる上に,すべてのタイヤで駆動するので,走行安定性や加速力が向上するなどのメリットもある。

慶応義塾大学の電気自動車「Eliica」
図1 慶応義塾大学の電気自動車「Eliica」
同大学環境情報学部の清水浩氏の研究室が製作した。1号車と2号車があり,1号車は最高速度370km/hを達成した(写真は2号車)。

電池の低コスト化が課題

 従来の電気自動車に使われていたPb(鉛)2次電池の質量エネルギー密度は40Wh/kg,体積エネルギー密度は70Wh/L程度である。これに対し,最近の電気自動車用Liイオン2次電池は質量エネルギー密度が110Wh/kg程度(2.75倍),体積エネルギー密度も160Wh/L程度(2.3倍)ある。電池性能の進化に加え,モータの性能が向上して走行性能もガソリン車に匹敵,あるいは上回るようになってきている。

 電気自動車のデメリットであった充電に時間がかかるという難点も,解消にメドが付きつつある。最近の電池は5分程度で70%から100%近い充電が可能になってきた。最後に残る高性能電池の低コスト化の問題についても,日本では「L2(エルスクエア)プロジェクト」のような産学共同研究が始まっている。