“フルHD”が,大画面テレビ向けフラットパネル・ディスプレイ(FPD)の必要条件として急浮上してきた(図1)。フルHDパネルとは,フルスペックのHDTV(high definition television)信号を間引くことなくプログレッシブ表示できる1920×1080画素のパネルを指す。垂直方向の画素数が1080でプログレッシブ表示であることを示す“1080p”もフルHD と同じである。

 フルHDが重要性を増してきたのは,テレビ受像機やコンテンツが大きく変化する兆しが出てきたためである。第1は,テレビ受像機のHDTVへのシフトである。フルHDである1080pの放送コンテンツはまだないが,すでにある1080i(垂直画素数1080のインタレース表示)のコンテンツの場合でも,1080p対応テレビ受像機だと「きめ細かい表示が可能である」(複数のテレビ技術者)と言う。

 第2は,「Blu-ray Disc」や「HD DVD」によるディスクの大容量化である。これらのディスクには,1080pのコンテンツが2006~ 2007年に収録される可能性がある。第3は,デジタル・カメラの進化である。デジタル・カメラは,一眼レフ・モデルでフルHDの画素数を超える1000万画素前後の製品が普及しつつある。こうした高精細のデジタル・カメラの写真の表示では,「ディスプレイの画素数はできるだけ多い方が補間処理しやすく画像はきれいになる」(複数のテレビ技術者)と言う。

プラズマ・テレビもフルHDへ

 50型を中心とするリビングのFPDテレビのフルHD化では液晶テレビが先行し,これにリア・プロジェクション・テレビが追随していた。一方プラズマ・テレビは,フルHD化するには70型(対角178cm)以上に大きくするか輝度を犠牲するしかなく,多くの大手メーカーは製品化に二の足を踏んでいた。
しかし,ここへ来てプラズマ・テレビ陣営が相次いで参入することを決めた。2006年の製品化を目指しているのが,例えば日立製作所やパイオニアである。日立は,すでに「55型(対角140cm)で技術的に実現可能」(同社ユビキタスプラットフォームグループCOO の井本義之氏)としており,「将来的には42型(対角107cm)もフルHD化していきたい」(同氏)とする。パイオニアは,2006年のサッカーのワールド・カップ大会に間に合うように,フルHDのPDPを製品投入していく計画である。


図1●プラズマ・テレビ陣営がフルHD市場に参入 PDPは一般に高精細化すると発光効率が低下する。フルHD市場への参入では,これを補うための技術の開発が重要になる。本誌が作成。