Electronics Manufacturing Services

 EMSは,電子機器の製造や設計を担うサービスのことである。1980年代までは受託製造(CM:Contract Manufacturing)サービスと呼ばれていた。当時の受託製造サービス企業はボード・アセンブリ(量産製造)を主体としていた。顧客である電子機器メーカーの発注に応じてボードを製造する。新しいボード・アセンブリ技術を開発するのは電子機器メーカーであり,受託製造サービス企業は技術開発の担い手ではなかった。

 現在のEMS企業は,受託製造サービス企業とはまったく違う。手掛ける領域が大きく広がっている。量産のボード・アセンブリが主体であることは変わらないものの,量産前試作やボード設計,きょう体設計,テスト,保守,修理,電子部品調達なども請け負っている。LSI設計を請け負うEMS企業もある。また大手のEMS企業は,技術開発の担い手にもなっている。例えば,Pb(鉛)フリーのハンダ付け技術や高密度実装技術の開発チームを抱える。

 大手のEMS企業はいずれも,北米やアジア,欧州の各地域に製造拠点を構えている。最大手の3社ともなると,売り上げは1兆円を超える。例えば,EMS企業の売り上げ高ランキングを毎年発表している米Electronic Business誌によると,トップのシンガポールFlextronics社は2003年に138億米ドルを売り上げ,全世界で9万5000人の従業員を抱える。2位の米Solectron社の売上高は111億米ドル,3位の米Sanmina-SCI社でも売上高は108億米ドルとなる(いずれも同誌2004年9月号から)。

 EMS企業の事業規模は,1990年代からに急激に伸びてきた。大きな理由は,米国や欧州などの大手電子機器メーカーが製造部門を切り離したことにある。米IBM社,米Xerox社,米Cisco Systems社,米Hewlett-Packard社,フィンランドNokia社,スウェーデンEricsson社などが機器製造工場を従業員ごとEMS企業に売却したり,製造部門を分離してEMS企業として独立させたりした。日本でもNECが2001年に子会社のサーバー製造部門をSolectron社に売却し,2002年には通信システムの製造子会社をカナダのEMS企業Celestica社に売却した。


電子機器設計製造の流れに占める,受託製造サービス(CM)と電子機器設計製造サービス(EMS)の違い
受託製造サービス企業の中から,EMS企業が育っていった。最大手のEMS企業は設計から製造までを請け負い,電子部品を独自に調達する。独自ブランドの製品を持たない,巨大な電子機器メーカーになりつつある。