用語解説

 マグネシウム(Mg)を主成分とする合金。比重がアルミニウム合金の2/3,鉄の1/4であり,実用化されている金属の中では最も軽い。比強度と比剛性が高いのも特徴。プラスチックよりは比重は大きいものの,重量あたりの強度や曲げ弾性率が高い。つまり,同じ強度を満たす部品を作った場合にはプラスチックよりも軽くできる。また,アルミニウム合金や鉄鋼と比べると,比強度が高いので,強度を犠牲にすることなく軽量化が可能になる。

 加えて,放熱特性,電磁波シールド性,切削性,振動・衝撃吸収性,耐くぼみ性,リサイクル性などに優れることから,ノートパソコンなどの小型家電製品の筐体をはじめ,自動車構造部品などに広く使われている。

 構造材用マグネシウム合金は,用途に応じて,アルミニウム(Al),亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),希土類などの添加元素を加えて多様な特性を持たせている。大別すると,Mg-Al系およびMg-Zr系の2種類がある。

 名称は,ASTM規格により添加する元素の頭文字と添加量(質量%)により決められている。例えば,Alを9%,Znを1%含むマグネシウム合金は「AZ91」と表記される。

鋳造用・ダイカスト用マグネシウム合金

 鋳造またはダイカスト向けマグネシウム合金では,強度と鋳造性を持たせるためにAlやZn,結晶微細化のためにジルコニウム(Zr),耐熱性をもたせるために希土類元素を添加することが多い。

 鋳造向け合金として最も代表的な組成がMg-Al系である。機械的特性のバランスに優れるのが特徴だが,耐食性にはやや劣る。

 Znを添加することによって耐食性を向上したのが,Alを9%,Znを1%含むAZ91系である。Znの固溶硬化とMgZnの中間相の析出硬化により強さが増すという特徴もある。AZ91系は,ダイカストやチクソモールディング(射出成形機を使う成形法)向けにも多用されている。

 このほか,Zrを添加することによって結晶粒微細化を図ったり,希土類元素を添加することによって高温下での強度とクリープ特性を向上させたり,といった多様な合金が登場している。

 応用分野としては,燃費向上や二酸化炭素排出量削減が急務になっている自動車の軽量化対策のために,ステアリング心材,シートフレーム心材,コックピットモジュールの構造材などの自動車部品向けに用途が拡大している。

展伸用マグネシウム合金

 展伸材には,圧延材,押出材,鍛造材などがあるが,合金組成としてはMg-Al-Zn系とMg-Zn-Zr系の二種に大別される。代表的なMg-Al-Zn系合金としては,Alを3質量%,Znを1質量%含有する「AZ31系」がある。固溶硬化と加工硬化により強度を高めた合金である。成形性や溶接性にも優れる。板材,管材,棒材,形材向けに多用されている。

 Mg-Zn-Zr系合金は,Zrを微量添加することによって結晶粒を微細化したもので,熱間加工性に優れる。また,熱処理により耐力が向上して,耐力/比重の比強度が大きいという特徴から,自動車分野などの構造材として使われている。

 また近年,温間圧延法の改良が進んで0.5mm厚以下の圧延材も開発されており,ノートパソコンなどのデジタル家電分野でも用途が広がってきている。

供給・開発状況
2006/03/31

自動車モジュールの構造体に採用


【図1】日産自動車「フーガ」のコックピットモジュール

 マグネシウム合金の用途として自動車部品向けに今後伸びそうなのが,近年広がってきているモジュールの構造体である。自動車モジュールは,コックピットモジュール,フロントエンドモジュールなど大型化する傾向にあり,より軽量な構造体が求められるからだ。自動車モジュール先進国といえる欧米では,コックピットモジュールの構造体をマグネシウム合金で製造する車種が徐々に増えている。

 日本でも例えば,「モジュール推進派」の日産自動車は,高級車「フーガ」のコックピットモジュールの構造体であるステアリングメンバにマグネシウム合金製を採用している(図1,2)。


【図2】「フーガ」に採用されたマグネシウム合金製のステアリングメンバ

 このモジュールを製造しているのがカルソニックカンセイ。ステアリングメンバはマグネシウム合金のダイカスト成形品で,旭テックが開発したものである。スチール製と比べると質量は25%の2kgほど軽量化できたという。なお,スチールと同等の剛性を持たせるには、マグネシウムでは1.5倍ほどの肉厚が必要になるが,形状をCAEにより最適化し,剛性を高めつつ軽量化した。

 これまでこうしたステアリングメンバには鋼管が使われてきたが,マグネシウム合金を使うことによって形状の自由度を高められることからスペース効率も向上しているとしている。例えばメンバのコの字型部分に空調用のダクトを収納できた。また,一体成形することによりこれまでボルトで取り付けていた部品を一体とし,部品点数も削減できた。メンバ単体で20~30点ほどの部品を減らすことができたという。

BMW,エンジンブロックに採用


【図3】「630i」に搭載されたマグネシウム合金を使った直列6気筒エンジン。シリンダライナー部分はアルミ合金で(青色部分),これを周りのマグネシウム合金に鋳込んでいる(BMW社)(クリックで拡大表示)

マグネシウム合金製自動車部品で今後注目されるのはエンジン向けである。今のところ最も熱心なのがドイツBMW社だ。

 同社は,マグネシウム合金をエンジンブロックの一部に使った直列6気筒エンジンを「6シリーズ」および「3シリーズ」に搭載した。2005年4月に発売した「3シリーズ」に搭載した6気筒エンジンの場合,マグネシウム合金を使わない従来エンジンに比べて「6%の軽量化を図れた」という。

 具体的な採用部品は,ヘッドカバー,シリンダブロック,ベアリングビーム。このうちシリンダブロックについてはシリコン(Si)の含有量が十数%のアルミニウム合金でライナーを作り,それをマグネシウム合金に鋳込んでいる。また,べリングビームについては荷重のかかる部分に鉄製の部品を使ってマグネシウム合金に鋳込んだ(図3)。

ニュース・関連リンク

BMW3シリーズにMg合金の6気筒エンジン

(日経Automotive Technology2005夏号)

【インターネプコン】オーエム産業,マグネ合金を3価クロメート処理した携帯電話機の構造部品を展示

(Tech-On!,2005年1月21日)

【東京モーターショー速報】カルソニックカンセイ、「フーガ」のコックピットモジュールを展示、ステアリングメンバはマグネシウム合金製

(Tech-On!,2004年11月3日)

日立金属MPF,意匠性の高いマグネ合金筐体をソニーのネットワークウォークマン向けに納入開始

(Tech-On!,2004年10月2日)

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(Tech-On!,2004年7月6日)