一定の電流を流して電圧を測定することで,温度を計測できるトランジスタのこと。pn接合部の順方向の電圧降下が温度により変化する性質を利用して,温度を測定する。例えばLSIに実装すれば,LSIの温度が動作補償範囲内に収まっているかを確認する用途に使える。現在ではマイクロプロセサ,メモリ,FPGA,ASICと様々な半導体素子に内蔵されている。

 温度センサ素子としてサーマル・ダイオードをLSIに集積する場合,微細化に伴って測定した温度の誤差が増すという欠点がある。製造ルールが65nmになると,この誤差の影響が無視できなくなる。ある技術者は「90nm世代では約6℃だった誤差が65nm世代では約13℃に広がるかもしれない」と語る。

 微細化に伴い温度の誤差が増す理由の1つは,素子のバラつきの増大である。微細化が進んでトランジスタの層間膜厚や配線幅のバラつきなどが大きくなると,素子ごとの電圧降下の度合いにもバラつきが生じ,測定温度の誤差が大きくなってしまう。誤差が広がるもう1つの要因として,配線が微細になるためサーマル・ダイオードの寄生抵抗が大きくなることがある。この抵抗値は温度によって変化し,その値が誤差として現れる。

 オンチップの温度センサ素子ではなく,プリント配線基板に実装した温度センサ素子を使えば,微細化によって誤差が拡大することはない。ところがこの方法では,LSIの温度をパッケージや基板を介して測ることになる。チップの温度を正しく把握することが難しくなるのに加え,測定系の時定数が大きくなるため短時間での温度変化に追従できない欠点がある。

図 液晶テレビに向くおもな液晶技術
図 サーマル・ダイオードは,pn接合の電圧降下が1mV/℃~2mV/℃程度の温度係数を持つことを利用して温度を測定する。流す電流を一定にし,順方向の電圧と電流の関係から温度を求める(a)。ただし,この手法では逆方向飽和電流(Is)が温度によって変化するため,Isを較正する必要が生じる。そこで,実際には2種類の電流源を使って2回電流を流し,そのときの電圧の差(mVf)から温度を求める方法を採る場合が多い(b)。それぞれの電流を流す際のVfとTの関係式からIsを消去することができる。実際のサーマル・ダイオードにはトランジスタが用いられる(c)。 (日経エレクトロニクス2005年9月12日号より抜粋)