一般には消耗し尽くすことを示すが,特許や著作権などの知的財産の分野では権利が効力を失うことを意味する。用尽とも言う。例えば特許権の場合,特許発明に係る製品を適法に譲渡した時点で,譲り受けた製品の所有者が,その譲り受けた製品に関して自由に使用,譲渡,貸し渡し,輸入などを行えるようにするために,特許権の消尽という概念があると解釈されている。

 「特許権の消尽」の基となったのは,いわゆる「BBS事件」の判決である。ドイツおよび日本でタイヤ・ホイールの特許権を持つBBSが,ドイツで販売されていたBBS製品を国内に並行輸入した業者を特許権侵害で訴えた。この訴訟で最高裁判所は並行輸入業者による特許権侵害を認めなかった。

 特許権の消尽は,使用済み品を再生して販売する再生品の特許侵害を争うときに焦点となることが多い。例えば,キヤノン製のインク・カートリッジの使用済み品にインクを再充填した再生品を中国企業から輸入し,販売するリサイクル・アシストによる特許権侵害の有無をめぐり,訴訟が起きている。この「インク・カートリッジ事件」の判決の中で,知的財産高等裁判所(知財高裁)は2006年1月に消尽の例外となる2つの場合を明示した(図)。耐用期間の観点と,発明内容に関する技術的な観点である。知財高裁は,後者の点で,リサイクル・アシストの再生品は特許発明の「本質的部分を構成する部材を加工または交換」した製品に該当すると判断し,特許権は消尽しないため特許権の侵害に当たるとした。

 特許法では,発明の1つである「物の発明」の実施行為として,次の6種類を規定している。(1)生産,(2)使用,(3)譲渡,(4)貸し渡し,(5)輸入,(6)譲渡または貸し渡しの申し出(譲渡または貸し渡しのための展示を含む)である。特許権が消尽した後は,特許権者の許諾なしに特許発明の実施に当たる(2)~(6)の行為を自由に行える。ただし,(1)生産についてはその物は既に生産されているため,製品を譲渡された者が自由にできる実施行為には含まれないと考えられている。

 過去には,再生行為が「新たな生産行為」に当たり,特許権は消尽しないとして特許権の侵害を認めた例もある。例えば,富士写真フイルムのレンズ付きフィルム「写ルンです」のリサイクル品の特許権侵害を認めた「使い捨てカメラ事件」である。レンズ付きフィルムでは,フィルムを取り出す際に連結部材が破壊される。しかも新たなフィルムを装填するために裏カバーを本体から外すと,さらにフックや超音波溶着部分などが破壊される。このことから,例えば再生品は主要な部材を交換したもので「修理ではなく,新たな生産に当たるため,特許権を侵害している」と,2000年8月に東京地方裁判所は判断していた。

図 「インク・カートリッジ事件」で示された,特許権の消尽の基準
図 「インク・カートリッジ事件」で示された,特許権の消尽の基準 (日経エレクトロニクス2006年2月13日号より抜粋)