企業と大学の共同研究から生まれた特許を企業が実施する際に,共同研究相手の大学に対価を支払うこと。大学は企業と異なり,製品の開発/販売といった事業を行わないことから,共同研究による特許を実施できない。そのため不実施補償という名目で,共同出願特許を実施する企業に対してロイヤルティーの支払いを求める。企業と大学が共同研究を開始するに当たり,不実施補償を払いたくないという企業と支払いを求める大学の間で意見が対立することがある。

 こうした知的財産をめぐる企業と大学の食い違いは,特許法の在り方に端を発する。本来,特許法は産業の活性化を目的として発明者のモチベーションを高めるために排他的独占権としての特許権を与えるもので,利益を追求する企業にはなじむ。これに対して公共性を重視する大学に排他的独占権をそのまま当てはめるのは難しい。しかし,2004年4月の国立大学の独立行政法人化をキッカケに,特許法が大学にも適用されるようになった。ここに企業と大学の共同研究から生まれる成果の取り扱いについて両社の意見が食い違う原因がある。

 一部の大学関係者の中には不実施補償を求めない例もある。研究を始める前から権利主張が先行してしまうと,まとまる話をもまとまらないためである。一定期間は共同研究相手の企業が独占的に実施できるようにして,一定期間が過ぎた後にはほかの企業にも大学がライセンス活動をするといった契約にすることが多い。共同研究相手の企業は他社に先駆けて製品化できる。

図 矛盾する大学と知的財産の取り扱い
図 矛盾する大学と知的財産の取り扱い(日経エレクトロニクス2005年1月31日号より抜粋)