色素増感型太陽電池は,色素によって光エネルギーを利用する点で光合成と似ている。電池に光が当たると電池中の色素が励起状態となり,電子を放出する(図の1)。この電子は酸化チタン(TiO2)を経由して透明電極に達し,外部に流れる(2)。一方,電子を放出して陽イオンになった色素は,もう片方の電極から供給される電子を,電解液中のヨウ素(I)を経由して受け取り,元の状態に戻る(3~5)。

 色素増感型太陽電池の大きな特徴の1つは色や形状の自由度が高いことである。利用する色素としてシアン,マゼンタ,黄色の三原色を利用して,赤や緑,青など実にさまざまな色の電池を用意できる。黒っぽい色のSi太陽電池では考えられなかった特性である。形状が四角いSi太陽電池と比べて,三角形や星型など,自由な形状に切り抜いた電池を作れることも色素増感型の利点。プラスチック基板を使えば曲がる電池も実現できる。Si太陽電池より大幅に軽くなる。

 もう1つの大きな特徴は,安価に製造できること。Si太陽電池で必要な半導体製造装置のような大掛かりな設備が要らないためである。色素増感型は構造が単純なため,量産しやすいという。

 色素増感型の課題は,Si太陽電池と比べて光電変換効率が低いことである。最高で20%を超えるSi太陽電池に対し,色素増感型太陽電池は高いものでも半分の10%程度である。しかも,色素の色を変えると効率は大きく変化する。大ざっぱにいえば,色や形状の自由度を高めれば高めるほど,効率は落ちる傾向がある。例えば曲げられる電池に用いるプラスチック基板を利用するタイプは,ガラス基板を使うものと比較して効率が下がる。プラスチック基板を用いた方が透明電極のシート抵抗が大きい,といった理由からである。

 色素増感型太陽電池の原理自体は1970年代から知られていた。当時は色素が放出する電子をうまく取り込む技術が確立できなかったため,光電変換効率は0.1%程度と極めて低かった。こうした状況を打破したのがスイスEcole Polytechnique Federale de Lausanne (EPFL)のMichael Gratzel氏である。同氏が1991年に7%を超える光電変換効率を実現した色素増感型太陽電池の論文を発表したのを契機に,研究者の耳目が集まった。

色素を使って光のエネルギーを電気に変換
図 色素を使って光のエネルギーを電気に変換
2003年9月15日号より抜粋)

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