超電導に転移する臨界温度が高いこと。臨界温度が液体窒素の沸点(77K)より高い温度で超電導に転移する物質(線材)がいくつか発見されている。Nb-Ti系の低温超電導体の場合は,液体Heを使い,4.2Kまで冷やす冷却器とその保温ができる設備が必要だった。臨界温度が液体窒素の沸点より高い温度で超電導に転移すると,冷却器や保温設備を簡便化でき,コストを大幅に低減できる。

 高温超電導体の代表例には,ビスマス(Bi)系線材とイットリウム(Y)系線材がある。このうち,Bi系線材の量産技術と加工技術が成熟してきている。例えば住友電気工業は,一度に1000mの線材をいくつも製造できる装置を2004年3月に設置した。これが,工業利用に向けた動きを加速している。機器メーカーはこれまでとは比較にならないほど容易にBi系線材を手に入れることが可能になったためだ。

 ただしBi系線材の利用は,一部の用途に限られる。線材の価格が高いことや,液体窒素で実現できる温度では,大きな磁場を発生できないことだ。Bi系線材では,液体窒素冷却器の最低温度である66Kでコイルを1T以上の磁場にさらすと超電導状態が壊れてしまう。高磁場での利用が可能な上に,Bi系超電導材よりも低コスト化が可能な次世代の超電導線材の開発も進められている。その代表例がY系高温超電導線材である。

高温超電導体が機器に
図 高温超電導体が機器に
図の曲線は,超電導体が発見された年をプロットした。高温超電導体は1986年に発見されたが,約20年たった今,モータや送電線,コイルなどでようやく実用化の兆しを見せ始めた。高温超電導体の実用化例としては現在のところ,携帯電話の基地局向け帯域通過フィルタや,低温超電導コイルへの電力供給に用いる電流リードなどがある。(2005年2月28日号より抜粋)