情報システムの導入に必ずといっていいほど付いて回る評価基準。システムの場合は,導入・運用段階でかかる費用と,システムの活用によって得られる効果を金額で表したものの比較を指す。これによってシステムを導入すべきかを判断したり,システム導入が成功しているかを判断したりする。

 システムの導入によって得られる効果には,削減したコスト,削減した工数,削減した不具合件数といった数値で表現できるものがある。このように効果を定量的に表せれば,それに単価を乗ずることで金額を算出できるわけだ。

 注意しなければならないのは,金額で表せる効果でも意味をなさない場合があること。例えば,システムの導入によって作業にかかる時間を短縮できた場合は,その時間を基に金額を算出することで,費用を削減できたと考える。しかし,人件費を固定費として支払っている場合,支出は変わらない。短縮した時間で他の業務を実施するなどして時間を有効に使うのでなければ,効果が出ていないのと同じことになってしまう。

 このように,金額で算出できる直接的な効果も存在するが,それを基にした費用対効果だけで導入の可否を判断するのであれば,導入できるシステムは非常に少なくなる。3次元CADや生産管理システム,ましてやERPパッケージなどはとても導入を決断できない。

 なぜならば,システム導入の効果すべてを金額で表すことは不可能だからだ。特定の担当者の単純な作業を自動化するだけのシステムならまだしも,さまざまな担当者が関わるシステムには,金額では表せない効果が数多く存在する。

 3次元CADの活用による設計品質の向上やSCMシステムの活用による欠品の防止といった間接的な効果や,競合他社に対する競争力の強化といった定性的な効果を定量化するのは難しい。また,導入したシステムを活用して開発・生産した製品の売り上げが伸びたからといって,システム導入の効果に結び付けることは困難だ。売り上げ増大にシステムがどの程度寄与したのかわからないからだ。

 システム導入の前後で,かかった時間やコストなどを正確に比較できない場合も多い。同じ製品を同じ担当者が同じ条件で開発・生産していて,システムの有無だけが異なるのであれば正確に比較できるが,そうした状況はあり得ない。扱う製品が変わったり,業務を進める際の考え方や手法が異なったりするからだ。

 そこで現実解となっているのは,金額では表現できない効果の存在を認めること。金額では表現できなくても得られる間接的あるいは定性的な効果に対して,どの程度のコストをかけられるかを,経営的な視点から判断することになる。

 この経営的な視点での判断を容易にするために用いられるようになったのが,「重要業績指標(KPI:Key Performance Index)」 と呼ばれる管理指標だ。在庫回転率や品質トラブル件数といった,自社が目指すべき方向の管理指標を選び,それを財務指標と関連付ける。これによって,どのような改善が進めばどのような財務的効果が得られるのかを見極める。

 システムの導入自体は,管理指標の向上を目指して取り組む。一方,投資すべきかの判断や費用対効果の確認は,管理指標の数値を基に財務指標を導き出すことで実施することになる。

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