ポリゴン・エディタ(polygon editor, layout editor)は,LSIのマスク・レイアウトを人手で作成したり,修正するためのツールである。ポリゴン・エディタは最も古参のEDAツールと言える。1960年代末に登場した。

 このころ,IC製造の露光に使うフォトマスクがNC制御の自動描画装置注)によって作られるようになった。ポリゴン・エディタは,その自動描画装置の入力データを作成・編集・修正するために実用化された。当時,ポリゴン・エディタは0.1MIPS程度のミニコンとモノクロのCRTを使ったシステムで稼働していた。

あらゆる分野で使われる基本ツール

 稼動するコンピュータがミニコンから高性能なワークステーションやパソコンに置き換わったが,現在でもLSI設計に欠かせないEDAツールの1つである。MOS,バイポーラ技術を問わず,ゲートアレイやセル・ベースLSIのマクロセル設計をはじめ,メモリやマイクロプロセサ,アナログLSIにいたるまで,あらゆる分野で人手レイアウト設計,またレイアウト設計結果の修正・編集・検証に利用されている。

 半導体製造技術の微細化で,ポリゴン・エディタの扱うデータ量は増加の一途をたどっている。アレイ基本要素(後述する)を用いても,数百万トランジスタを集積している最近のマイクロプロセサでは,約100万個の図形を扱う。図形表示の高速化と信頼性が重要視されている。


図1 マスク・レイアウトの基本要素(1トランジスタの場合)

 ポリゴン・エディタで作成したマスク・レイアウトは,レイアウト検証ツールでチェックする。

矩形や多角形で表す

 一般にLSIのレイアウト設計では,マスク製造に必要なすべての図形を下記の基本要素からなる「セル(cell)」の集合として表現する。これは,自動レイアウト・ツールで作成しようが,ポリゴン・エディタで人手設計しようが同じである。

 セルの基本要素とは,

  1. 矩形
  2. 多角形(ポリゴン)
  3. パス(幅が一定な図形)
  4. テキスト(文字情報)
  5. セル参照
  6. アレイ

である(図1)。ここでアレイとは,メモリ素子のような大量の繰り返し図形を効率的に表現するために,基本要素の繰り返し数を表現する要素である。

図2 図形と層番号

 セル参照とアレイを除く基本要素は形状を示すための座標値列(テキストの場合,その文字列と置かれる座標値)に加えて,「層番号」という値をもつ。層番号でどのフォトマスクのデータかを示す(図2)。

 ポリゴン・エディタへのデータの入力方法は,2通りに大別できる。1つは,自動レイアウト・ツールの出力結果を入力する場合である。ネットワークや磁気テープを介して,ポリゴン・エディタに入力する。この際,ポリゴン・エディタが受け付けられるデータ・フォーマットに設計結果をあらかじめ変換しておく。

 もう1つのデータ入力方法は,人手入力である。設計者はディスプレイを見ながら,図形の座標点列をマウスなどで入力する。入力されたデータは,ハード・ディスク装置に格納する。

 レイアウト検証ツールを使って設計誤りが発見されると,ポリゴン・エディタを使ってそれを修正する。その際には,エディタの次のような機能を利用する。すなわち,

  • 画面の拡大や移動
  • 図形の追加やコピー,削除,移動・形状の変更

である。検証と修正の繰り返しで,最終的に誤りがなくなった図形データは,フォトマスクの自動描画装置に送られる。

注)フォトマスクの自動描画装置が登場した当時は光学式であった。現在は電子ビームやレーザ・ビームを使って描画する。


(99. 9. 6更新)

このEDA用語辞典は,日経エレクトロニクス,1996年10月14日号,no.673に掲載した「EDAツール辞典(NEC著)」を改訂・増補したものです。