schematic capture

 回路図エディタは,電子・電気回路図面を作成・編集するためのツールである。単に回路図を描くだけでよければ,一般の作図ツール(いわゆるお絵描きソフト)でも良い。しかし,回路設計では,回路図だけでなく,後工程で使うための各種の設計データも同時に作成することが求められる。例えば,回路の接続情報(ネットリスト)や回路図上に付加した各種の情報をデータ・ファイルとして出力できることが重要である。

 回路図エディタを使った基本的な設計作業は次のように進む。まず,ライブラリから使用する素子に対応したシンボルを選び出し,図面上に配置する。次に,シンボルの各ピンとほかのシンボルのピン間を結ぶ(配線する)。バスのように,複数のピン間を一度に結ぶ機能もある。素子や配線には名称や各種の仕様を付加情報として添えることができる。

 回路図が完成すると電気的に正しく接続されているかどうかを調べるために,チェック機能を起動する。操作のたびごとに,このチェックを行なう回路図エディタもある(詳しくは後述する)。

論理合成の普及で影が薄く

 回路図エディタは,ワークステーションの普及に歩調を合せて1980年代初めから設計者に使用され始めた。これまでに数多くのEDAベンダーが製品を発売している。最近,論理合成ツールを用いる設計手法が広まるにつれ,回路図エディタで回路設計することは少なくなりつつある。今後はエディタという使いかたより,解析ツールの処理結果を表示するなど,解析ツールのユーザー・インタフェースとして使われる機会が多くなると思われる。

 回路図エディタはほかのEDAツールと同様に,登場したてのころはUNIX上で稼働する製品が多かったが,最近はWindowsパソコンで使える製品が増えてきた。OLE(object linking & embedding)に対応した製品では,たとえば,ワープロ文書中への回路図の張り付けが容易に行なえる。

各種の機能を用意

 冒頭で述べたように,回路図エディタには,一般的な作図ツールにはあまりない各種機能を備えている。以下にそれを紹介する。

(1)シンボル・ライブラリ
 いわゆる標準TTL IC,同CMOS IC,IEEE標準に対応したシンボルを準備している。

(2)シンボル作成・編集機能
 ライブラリにないシンボルは,ユーザーが作成・編集できる。この機能を使うと,階層設計が容易になる。

(3)水平・垂直モード設定機能
 このモードに設定すると,まっすぐに水平または垂直な線分を引くことができる。また,回路図の一部分を複写・移動する場合にも,水平または垂直に平行移動させることができる。

(4)自動配線機能
 2点を指定すると,その間の障害物を避け,自動で配線する機能。この機能により,作図の工数を少なくすることができる。

(5)トラバース機能
 階層間やページ間の図面を行き来する機能。所望の図面に対応したシンボルを指定するだけで,その図面を表示する機能。この機能がないと,所望の図面のファイル名を指定するなどの一連の操作が必要になる。

(6)部品表作成機能
 使用している素子の一覧,その個数などが表形式で出力される。さらに,部品のコストを中心に情報をまとめたコスト表なども作成できる。

(7)回路図面間のコピー機能
 複数の回路図面を表示しておき,その間で回路図の一部や全部をコピーする。

(8)ネットリストの出力機能
 後工程で使うシミュレータなどに回路情報を渡すために,EDIFやVHDLなどの業界標準フォーマットでネットリストを出力できる。回路図エディタがこれらのフォーマットで直接ファイルを作成する場合もあるが,一般には回路図エディタ独自フォーマットのファイルからコンバート・プログラムを使って作成する。

(9)文書ファイルへの回路図張り付け機能
 表示中の回路図データをすべてあるいは一部分を抜き出し,ワープロなどで作成した文書中に張り付ける機能。パソコンで稼働する回路図エディタのほとんどには備わっている機能である。

(10)回路図のチェック機能
 多くの回路図エディタには,回路図段階で電気的な接続チェックをするERC(electrical rule checking)機能が備わっている。回路図作成後にまとめて(バッチ的に)チェックを行なうものと,新たに操作するたびに(オンライン的に)チェックするものがある。

 主なチェックの具体的な項目としては,次のようなものがある。

  • 入力ピンだけが結ばれていないか
  • 複数の出力ピンが結ばれていないか
  • ピンに接続されていない配線がないか
  • ピンが複数の異なる配線で結ばれていないか
  • ファンアウト数の制約を超える配線が結ばれていないか
  • 配線のないピンがないか
  • 接続してはいけないピン同志が結ばれていないか

(11)名前の自動付加機能
 図面上に配置したシンボルや配線に対して自動的に名前を付加できる。2つのモードを備える製品が多い。1つのモードでは,名前を付けたい素子や配線を指定すると,名前を自動発生し,その名前を自動的に割り振る。もう1つのモードでは,名前を自動発生するが,素子や配線への割り振りはユーザー自身が指定する。

(12)属性付加機能
 素子,ピンあるいは配線に対して各種の情報を付加することができる。例えばトランジスタ・レベルの回路図の場合,トランジスタのゲートのL/Wであるとか,ピンの入出力属性などを付加できる。一般には属性名=属性値というかたちでもつ。例えば,コンデンサの容量を属性として付加する場合は,

 C=10PF

のようになる。付加した情報は,後工程で使用することが多い。後工程で使用するEDAツールとの整合性を考えて,属性は付加する。

(13)階層シンボル自動作成機能
 回路図エディタで階層設計をする場合には,機能的にまとまった回路を1つのシンボルとして定義する。そして,このシンボルを上位の階層の回路図中で使う。多くの回路図エディタでは,このシンボルを自動的に作成する。機能的にまとまった回路の一部が未定義のままでも,このようなシンボルを使える回路図エディタもある。

(14)印刷機能
 もっとも基本的な機能。プリンタあるいはプロッタを使って回路図を印刷する機能。

(15)カスタマイズ機能
 ユーザー・インタフェースの動作(例えばメニューのコマンドの並びかた,Undoの回数,削除時の確認メニューの表示の有無)や,ERCのチェック項目内容などをユーザーの好みに合わせて変更できる。また,コマンド・インタプリタが組み込まれて,既存のコマンドを組み合わせてユーザー独自のマクロ・コマンドを作成できる製品もある。

(16)他ツールとの協調動作機能
 たとえば,論理シミュレータと組み合わせる場合,シミュレーション結果の見たいノードを回路図上で指定したり,シミュレーション結果を回路図上に表示できる。


(99. 9. 6更新)

このEDA用語辞典は,日経エレクトロニクス,1996年10月14日号,no.673に掲載した「EDAツール辞典(NEC著)」を改訂・増補したものです。